桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
ネカフェの職員の声に、私も朝士くんも驚いてパッと体を離した。
「あ、だ、大丈夫です……っ!」
「お静かにお願いしまーす」
扉は開けられることなく、立ち去る足音が聞こえるから──、ホッと胸を撫で下ろす。
「はーーー、マジびっくりした……」
体を起こしてマットの上で胡座をかく朝士くん。
彼の目が少し赤くなっているから、胸が痛くなった。
「はは、私達、何やってんだろうね……」
乾いた笑いに、ポツリと言葉を落とすと、
「愛の逃避行だろ~?」
「もう、ただの現実逃避でしょ?」
「どっちでもいーけどさ」
なんて、朝士くんが唇を尖らせる。
あれだけ追い詰められていたのに──。いつもの朝士くんがいるから、不思議と心が落ち着いてきた。
「ふぁー、眠くなってきた」
そう言って、朝士くんが両手を上に伸ばす。
「少し寝よっか」
「えっ、一緒に?」
「もう!睡眠とるだけだよ!ちゃんと寝なきゃ運転危ないでしょ?」
朝士くんが頬を赤くして、胸元に両手を当てるから。呆れたように息を吐いた。その瞬間、緊張の糸が切れたみたいに、体がズシンと一気に重くなる。
「なんだよ……。なぁ、手、繋いでいいか?」
「……いーよ」
疲れたな。今日、1日ずっと精神的にも身体的にも力が入っていたんだろうな。
明るい電気の下で朝士くんと手を繋いで横になった。
「明日……帰ろっか。あ、0時過ぎてるから今日か……」
「もういいのか?」
「うん」
どうなるか分からないけど、智夜さんと話さないと。何をどう聞くかなんて決まっていないけど、でも、それでもずっと逃げているわけにはいかない。
***
次の日。朝一で家に帰宅しようとしたのだけど、結局、夜眠れなくてお昼前まで眠ってしまった。
流石にマズいと思って、智夜さんから入っていたメッセージは読まずに『今から帰ります』とだけ連絡を入れた。
怒ってるかな……。
本宅に車を止めて、朝士くんが助手席から降りようとした時──、彼が露骨に顔をしかめる。
「あ、ヤベ……」
その視線の方向へ顔を向けると──、
「彩里ちゃん、と……朝士?2人でどこに行ってたの?」
そこには、お義母さんが立っていた。