桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「いつからだ!?」
「朝ご飯のあと、家の前で遊んでたのは見たらしいんだけど、その後が……」
智夜さんの声のトーンが落ち、緊張した空気が走る。
「俺が、朝士と彩里ちゃんが出かけてるって茉昼に言わなかったから……」
ぐっと拳を握りしめ、彼が震える声で言葉を続けていく。
「キャンプ場の中は探したけど見つからなくて……茉昼も今、山の中を探してる」
「俺、探してくる!」
朝士くんが駆け出そうとした瞬間、智夜さんがその腕をガシッと掴んだ。
「待て、朝士。山の奥は危ない。手分けして動かないと」
「でも、早く行かないと!俺、柊とよく川も行ってたし……1人じゃ入らないよう言ってはいたけど!!」
朝士くんの声が強くなり、不安そうに顔を歪ませる。
"川"という単語にゾッとした。
もし本当に川へ向かって、流されていたら。
もし──、柊くんに何かあったら……。
頭の中に、最悪な状況ばかりが思い浮かぶ。
どうしよう。私が昨日、家を出ていなかったら、こんな事にはならなかったのに……。
「彩里ちゃん、大丈夫?」
智夜さんに声をかけられ、はっと顔を上げた。
「……っ、はい」
全然、大丈夫じゃない。
柊くんの顔を思い浮かぶたび、不安でいっぱいになって、心臓が大きく音を立てていく。
「そんな大騒ぎしなくても、すぐ戻ってくるわよ」
そんな中、お義母さんの声が軽い声が聞こえてくるから、一瞬「え?」と耳を疑った。
「母さん、柊はまだ2歳なんだよ?」
「朝士なんて、子どもの頃しょっちゅう勝手にいなくなってたじゃない」
智夜さんの真剣な声に、まるで他人事みたいな口調で会話を続けていく──。
「……分かったよ。母さんは管理棟で待機してて。チェックインとか、お願い」
「えぇ、でもあっちの仕事が……」
「父さんには、俺の方から連絡しておくから」
「……まぁそれなら。何かあったら連絡ちょうだいね」
どこか納得しきれない顔のまま、お義母さんは私の方をちらりと見てから背中を向ける。そのまま、管理棟の方へ向かっていった。