桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
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「いでっ……いてーよ!もっと優しくしろって」
「もう!あんな危ないことするからでしょ!?」
リビングの椅子に朝士くんが座る。その前にしゃがみ込み、消毒液をつけたガーゼを傷口へ押し当てた。
あの後、救急車を呼んで、茉昼ちゃんと柊くんは病院へ搬送。 智夜さんも付き添いで家族として一緒に病院へ付いて行った。
そして──、私と朝士くんは家に戻ってきたのだ。
「だってさ、あのままじっとしてられねーだろ!」
「だからって、あんな崖みたいな所……回って下まで下りられたのに信じられない……」
朝士くんの腕や頬には、擦り傷や切り傷がいくつもできていた。
岩場でぶつけたのか、足と腕は内出血だらけで、ぱっくりと裂けた傷口から出血している部分もあった。
消毒液を塗るたび、朝士くんが「いっっ……」と顔をしかめるけど。わざと、苛立ちをぶつけるように怪我の手当てを進めていく。
あの時、茉昼ちゃんと柊くんの姿を見た瞬間、ショックだった。
だけど、それ以上に。
朝士くんが柵を飛び越えた瞬間、ゾッとしてもの凄く動揺したのも事実。
あの後ろ姿がまだ鮮明で、頭から離れない。
全然、迷いなんてなかった……。怖かった。胸がぐっと痛くなって、目頭も熱くなっていく。
「彩里、泣いてるのか?」
「っ……泣いてない」
「はは、マジで泣き虫だよなー」
なんて、朝士くんの手が頬に触れて、涙をそっと拭うから。
「触るの禁止!」
「こえ〜」
ガッと声を荒げれば、ケラケラと笑う朝士くんがいるから。
こらえていたものが崩れるように、ボロボロと涙が止まらない。
なんで、こんなに──。
「……っく、…ちょっとだけなら、別にいーけど」
「……は?」
「やっぱり今の無し!」
「無しってのが無しだろ!」
朝士くんの両手が伸びてきて、私の頬をむにっと摘まむ。そのまま、右と左にぐにゃっと伸ばされる。
「ちょっ、痛《いひゃ》い!」
「急にんなこと言われても緊張するだろーが!」
顔を真っ赤にした朝士くんが、どうしていいか分からない様子でパッと顔を横に向けた。
まだ少し幼さの残るあどけない横顔。
ふとした表情が、時々智夜さんに似てるけど、全然違う。
その時。ピコン、とスマホが音を立てた。
「あ、智夜からだ」