桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「お義母さん……」
「智夜から連絡がきたけれど。もう、大袈裟よねぇ」
部屋の空気にピリピリとした緊張が走り、一気に重苦しくなった。
玄関で靴を脱いだお義母さんが、足音を響かせながらこちらへ近付いてくる。
「あ、でも……。柊くんも茉昼ちゃんも無事で、良かったですね……」
お義母さんが、眉間にシワを寄せ大きく息を吐いてから口を開いた。
「たいした事ないのに救急車なんて来て、ホテルの評判が落ちたら困るわ。そんなことより──」
たいした事ない?そんなことより──?
お義母さんの台詞にざわざわと、胸の奥に違和感が広がる。
「彩里ちゃん、また朝士といるの?」
「あ?どう見ても怪我の手当てだろ?」
「あなたは黙ってなさい」
ぴしゃりと言い放つと、お義母さんは持っていた茶封筒を目の前に出して言葉を続けていく。
「朝士と朝帰りした挙げ句、これは何かしら?」
その封筒を見て、"しまった"と思ったところでもう遅い。お義母さんが手にしているものは、昨日、役所でもらってきた書類だった。
その中から取り出したのは、私の名前が書いてある"離婚届"と朝士くんの名前が書かれた"婚姻届"だ。
車の中に置きっぱなしだったんだ、どうしよう……。
「彩里ちゃん、智夜と離婚を考えてるの?」
「い、いえ……あの、それは……」
朝士くんの手当てをしてしゃがみ込んだままの私を見下ろすよう。お義母さんの鋭い視線に、まるで肉食動物に獲物として捕らえられた小動物のように身動きが取れない。
「それに、どうして婚姻届に朝士の名前が書いてあるの?」
「そ、そんなの……ノリに決まってるだろ?」
朝士くんが慌てて答えてるけど。目は左右に泳ぎっぱなしてで、全然隠せてない。むしろ怪しさ全開で……。
「はぁ、あの子ね……茉昼がおかしいんでしょう?」