桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「は? 何言ってんだ? 茉昼関係ねーだろ!」
「朝士くん!」
朝士くんが勢いよく立ち上がり、お義母さんに食ってかかろうとするから、止めようと慌ててその間に入る。
「はぁ、朝士ったら……。もう、すぐ怒鳴るんだから」
「当たり前だろ!?」
けど、お義母さんはそんなの気にする様子もなく話を続けていく。
「智夜も別に、病院までついていく必要なんてなかったのよ。これじゃぁ、いつまでたっても私だって仕事に戻れないし」
なんて、困ったように眉を下げ、窓から見えるホテルの方へ視線を向けた。
子どもと孫が怪我をして病院にいるという状況なのに、気にするところはそこなの?
「あんまり大きな声じゃ言えないけどねぇ……。前のお嫁さんがね言ってたのよ」
「……いい加減にしろよ」
さっき感じたこの人に対する違和感が、より大きくなっていく。
「智夜に対する茉昼の距離が普通じゃないって。離婚の原因の1つも、それだったみたいで……」
どきり、と心臓が大きく跳ねた。
嫌な予感がする──。
「ねぇ、彩里ちゃん。柊の父親について何か知ってるかしら? もしかして……」
「前の彼氏なんじゃないんですか?」
お義母さんの台詞を遮るように、私は言葉を落としていた。
朝士くんの肩から手を離して、くるりと体をお義母さんの方へ向け背筋をピンと伸ばしてから。
にっこりと、淡々と、静かに口を開いた──。
「他に誰かいるんですか?私は何も知りませんけど」
「ま、まぁ……そうよね」
お義母さんが、歯切れの悪い言葉をにごすように口にする。
「実は、私。昨日、智夜さんと喧嘩したんです」
「……あら、そう」
「夫婦喧嘩です。でも、一晩たって落ち着きました」
ダイニングテーブルの上に置かせた離婚届に視線を落とし、それから顔を上げてお義母さんにしっかりと目向けた。
「私。智夜さんと離婚しません。だから、安心してください」