桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「友達と上手くいかなくて、公園で1人で泣いてたんだよ」
──私もひとのこと言えなくてさ、女子に嫌われてたし──
「あの時、茉昼とベンチで話してたとき、彩里ちゃん泣いてたよね?」
──だって私分かるもん。すごく、分かる──
「行く場所がないって辛そうで見てられない、放っておけない、心配だって。茉昼がすごい必死になって頼んできたんだよ」
──誰も知らない遠くに行きたい、逃げ出したい気持ち……──
「あいつ、自分と重ねてたんだと思う。昔からよく、1人で泣いてたから」
──柊、危ない目に合わせて、ごめんね、ごめんねぇ…──
柊くんを抱き締めて、叫ぶように泣きじゃくる彼女の姿を思い出す。
「正直、俺、最初は乗り気じゃなかったよ。でも──、今は相手が彩里ちゃんでよかったと思ってる」
智夜さんが、眉を下げて穏やかに笑うから。
まっすぐ向けられた言葉に、胸の奥の感情がぐちゃぐちゃに揺れる。
「彩里ちゃんといると、本当に心から安心できるよ」
辛くて辛くて誰も知らない何処かへ行きたかった時。私の手を握って、泣きそうになりながら話を聞いてくれた。
あの手に救われた事実は何も変わらない──。
「ふふっ、もう……、茉昼ちゃんにはかなわないですね」
「そうかな」
「……私も話しますね、本当の理由」
「え?」
「もちろん、あそこから逃げ出したかったのも本当なんですけど……、実は………あの、」
ここまで言いかけて、言葉が詰まる。
おかしいな、もう、消化できてると思ったのに。
「無理して言わなくていいよ」
「いえ、伝えておきたいんです」
「……」
「私、妊娠しても育たないんです。それが理由で前の旦那と別れました……」
「そうだったんだ」
「だから……、お義母さんが"孫の話"とかしてきたら、守ってくださいね」
なんて、小さく笑って見せると──、いつもの智夜さんが優しい笑顔を見せて私の頭にポンと手を乗せた。
「うん、守るよ。絶対に」