桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~



「仕事に穴を開けることになったし、ホテルの評判だって落ちるのよ」

「なによ、それとこれとは関係ないでしょ?」

「ご近所の目だってあるのよ」

「えー、今どきシングルなんて普通じゃん!」

「茉昼、あなたの場合は違うでしょ?」

お義母さんのヒステリックな声が一段と高くなりる。こっちまで響いてくるから、慌てて柊くんの耳を塞いだ。


「はぁ……恥ずかしいと思わないの?父親だって誰か分からないのに」

「思ってるのは、お母さんだけじゃん!」

「柊を寝かしつけてるって言ったって、毎日兄妹で同じ部屋にいるなんておかしいわよ。疑われたって仕方ないの」

「違うって言ってるでしょ!?何回言わせるの!」

見えなくても分かる。
茉昼ちゃんの声は、今にも泣き出しそうに震えていた。


「しゃー……」

泣きそうな顔になった柊くんを見て、その小さな体をぎゅっと抱きしめた。




「うるせーな。またやってるのかよ?」

聞き慣れた声に顔を上げる。
朝士くんの声だ。


「柊は柊だろ。父親が誰とか、今さら関係ないだろ」

不機嫌そうな声。その言葉に、一瞬だけ嫌な予感がした。
また朝士くんとお義母さんが言い合いになるんじゃないかって。


「柊が大人になった時……」
「いい大人がさー、子供の前で大きな声出して怒鳴るとかやめろよ」


お義母さんの言葉を遮るように、朝士くんが続けるから。思わず目を瞬かせた。


「どうせ、その辺に柊隠れてんだろ?子供ってさ、大人の顔色ちゃんと見てるんだから」


落ち着いた声のトーン。
朝士くんが、まともなことを言っている。
急に、どうしたんだろう。

でも──。
柊くんを胸に抱いたまま、ゆっくり扉を開けると。
廊下には、茉昼ちゃん、お義母さん、そして朝士くんの3人が並んでいた。


「あしゃー!」

朝士くんの姿を見つけた柊くんが、ぱっと顔を明るくする。
お義母さんは気まずそうに視線を逸らし、小さな息を吐いた。


< 132 / 148 >

この作品をシェア

pagetop