桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
14.5ミライノヒトリゴト
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あの日は雨が降っていた。空から小雨が静かに降り注ぐ雨雲が空を覆い隠す日だった。全ての感情を包み込むように。



「おめでとうございます。妊娠されていますね。ご主人ですか?」

「ち、違います、お兄ちゃ……あ、兄です」

診察室で産科医の明るい声に続いて、茉昼の沈んだ声のトーンが続いた。

茉昼から妊娠いていると打ち明けられたのは昨日だった。生憎、梅雨の時期だから仕事の都合がつきやすく、すぐに産科受診することができた。


「私、産みません」

「……急なお話ですし、すぐに結論を出さなくても大丈夫ですよ」

「おろします」

茉昼は下を向いまま、ただ静かにそう口にした。年配の産科医が茉昼の背後に立つ俺へちらりと視線を向けた。

通常の病院とは雰囲気が全然ちがう。淡くて優しい壁紙、動物の人形、全てが俺たち兄妹を責めているようにも見える。


俺の子だろうか。分からない。時期的に違うかもしれないけど、絶対に違うとはいいきれない。
あの頃の茉昼は俺が結婚していた時よりは落ち着いていたが、男とは完全に切れてなかった。
連絡がくれば会いにいくような関係は続いていたのを知っていた。



その後の病院の付き添いも俺がした。両親にバレないよう細心の注意を払って。
中絶の手術はまだ初期ということもあり日帰りで出来るものだった。


結局、手術当日──。茉昼が病院へ行くのを泣いて嫌がって行わなかったのだけど。




「ごめんな茉昼、時間だから行かないと」

「……お兄ちゃん、私のこと呆れてるでしょ?」

「え?」

「誰の子か分からない妊娠して、お兄ちゃんとだって……誰とでも見境ない女だって」

「呆れないよ、茉昼は茉昼だよ。俺は茉昼がどっちを選択しても」

「……お兄ちゃんはどっちがいいと思う?」

「……俺だって分からないよ。けど、茉昼の子なら、可愛いと思うよ」

泣きじゃくる茉昼を宥めるように、抱き締めたのを覚えている。



そうして、産まれたのが"柊"だった──。




「戸籍上、俺が父親になれることはない。でも、柊のことは絶対に守るから」



***




そして、今──柊の父親だと名乗る男が、桐田家に現れた。



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