桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「父親としての認知、養育費はきちんと払います」
「絶対だからね!お願いね!」
男の言葉に茉昼が返事をする。けれど、これで終わりでいいのだろうか。
身分証明書や連絡先等は提示して貰った。認知や養育費のはなしもまとまった。
でもそれだけで、全てが解決するのだろう。
柊が大きくなった時、本当の父親に会いたいと言ったら。金銭的に養育費だけじゃ足りなくなったら。この男はどうやって向き合うつもりなのだろうか。
問題は、まだいくらでもある筈なのに。
それに、今後は茉昼とこの男が直接連絡を取り合う形で話がまとまってしまって、本当にそれでいいのだろうか。
「失礼します」
男はソファから立ち上がり、応接室を出ていく。
その足取りは、逃げるように早かった。
「おい、待てって……」
ずっと捕まれていた茉昼の手を振り払って、その山中という男の後を追った。
ホテルを出てキャンプ場に続く道を小走りに進むと、その背中にすぐ追い付いた。
「あの、山中さん……!なんで突然名乗り出たんだ? だって、もう2年だぞ。柊が生まれてから」
「あ……」
男が振り返る。
「茉昼はSNSも柊のこと上げてたし、すぐ……もっと早く知れたはずだろう?」
「はは、……から聞いた通りだ」
「は?」
「あなたが、今の旦那さんですよね?彩里……さんの」
「彩里ちゃん……?は、一体なにを言って」
「はははー、彩里の奴こういう人を、選んだのかー」
男が吹き出すように笑い出した。
なんだ、コイツ不気味だな。全然、話が噛み合っていないじゃないか。
"ふざけるな"という感情よりも、"意味が分からない"という感情が上回り、言葉が出てこないでいると。
それまで笑っていた男が、困惑した俺に真っ直ぐに目を向けて口を開いた。
「俺は出来なかったから……、幸せにしてください」