桐田家のヒミツゴト~契約結婚したはずが、義弟との距離が近すぎる~
3年前、私のお腹に小さな命が授かった。
育つことのなかった、名前も残らない小さな命。
あの時、ちゃんと育っていたら。
柊くん位だったんだろうな。
無邪気に笑って、泣いて、くるくると表情をかえる。
この子みたいに、手のつけられない程のいたずらっ子だったのかもしれない──そう思うと。
「うっ、く、うぇ………ふっ」
「彩里?……どこが痛いんだ?」
喉が痛い。目頭が熱くなって、熱い何かが頬を伝ってボロボロと涙が止まらない。
全部、私が悪いんだ。ちゃんと育ててあげられなかったから。
親子連れを見ると、見たくないのに、自然と反応してつい目で追ってしまう。
子供なんて嫌いだ苦手だなんて言って、本当はあんなに待ち望んでいたくせに。
「……む、胸が痛いのよ!すごく、すごく苦しいの!!」
「胸?……心臓か!?」
「何、どさくさに紛れて触ってんのよ!!」
「え、だって苦しいなら擦《さす》ってやろうと……」
「信じらんない!もう下ろしてよ!」
「下、地面だぞ?」
「2人ともやだ!顔も見たくない!」
こんなの完全に八つ当たりだ。
自分の過去を重ねて、あんな小さい子にキツく当たってしまうなんて──。
***
「彩里ちゃん!柊が悪さしてごめんっ!!病院にも松葉杖の件、ちゃんと連絡しておいたから……」
寝室のベッドで不貞寝をしていた私のところへ来たのは茉昼ちゃんだった。
涙で顔が腫れ上った私の前に、彼女が心配そうに私を覗き込んでくる。
「私、彩里ちゃんの事情、知ってたのに無神経だっよね……」
「いや、私はあの場所から離れたかったから選んだ
わけだし……泣いたら少しスッキリしたというか」
「今からでもお兄ちゃんとの契約解除しても、」
「えっ、それは……ちょっと」
こんなギブスで包帯ぐるぐる、しかもバツ2になって実家に帰ることなんて出来るわけがない。
私と茉昼さんの間で神妙な空気が流れる中、
「彩里ちゃーーん、茉昼ーー!!おいで~」
「え?は?何、お兄ちゃん飲んでんの??」
缶ビールを片手にケラケラと笑う智夜さんが現れたから、肩の力が一気に抜けた。