桐田家のヒミツゴト~契約結婚したはずが、義弟との距離が近すぎる~


柊くんが朝士くんのズボンの裾をギュッと握り、下唇をだして私の事を下から様子を伺うよう覗き込む。


「あい、どーじょ」

反対の手で私に出したのが、小さな野花。
白くて、どこにでも咲いてるやつだ。
次に差し出されたのがくしゃくしゃの紙。


「なにこれ?」

「しゃいり……」

クレヨンで描かれた大きな丸に、目と口みたいなものがあって、そこから手と足が生えている。髪の毛ないんだけど。



「あはっ、ふふふっ、あははは……」

「しゃいり?」

「すごい、嬉しい……ありがとう」

「しゃいり、おこってる?」

「怒ってないよ。怒鳴ってごめんね。柊くんは悪くないの、私の問題なの」


「いや、柊が悪いだろ」

ピシャリと朝士くんが言うものだから、プッとまた笑ってしまった。


「あはは、もう怒ってない。大丈夫」

胸の奥に、ぐっと何かが込み上げた。
さっきまで泣いたばかりなのに、また視界が滲む。
こんな小さな子に。私は、あんな言葉をぶつけたのに。


ふと顔を上げると、茉昼さんと智夜さんがお肉や野菜を焼いているのが視界に入る。


「こっちもう火通ったかな?」

「もうちょっと焼いた方がいいよー」

いつも通りの声。いつも通りの空気。
私だけが、取り残されている気がした。

だから、私は逃げたしたんだけど──。

ゆっくりと目を閉じて、息を大きく吸って深呼吸をする。



「あのね聞いて、私のお腹に赤ちゃんいたの」

「あかちゃんー?」

「そう。でもね、お腹の赤ちゃんいなくなっちゃったんだ」

もしかして、ここにいたら柊くんとお友達になって遊んだりしたりして。
そんなこと、考えたらキリがないけど。



「どこいっちゃったの?」

「えーっと……、お空かな」

「えーー、あかちゃん、おなまえはー?」

柊くんが不思議そうに首を傾げる。

戸籍上は何も残らない。骨もお墓もない。
ただ、私の体の中に数週間いただけ。


言っちゃいけない気がしてたけど、本当は考えていた。

男の子でも女の子でも、こんな名前がいいなって──。





「……ミツキ」

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