桐田家のヒミツゴト~契約結婚したはずが、義弟との距離が近すぎる~
「な、何言ってるんですか!?そういう誤解する言い方、やめてください!」
声が裏返ると、智夜さんは一瞬、目を見開いて楽しそうに笑った。
「え?いや、普通に思っただけだけど。真面目だなぁ」
その"普通"が困るんだけど。心臓の音がやけにうるさくて。胸の奥が、少しだけくすぐったいのは何でだろう──。
「でも良かった。彩里ちゃんなら、俺の家族ともうまくやっていけそうだからね」
「あ……、それでカフェ代は?」
恥ずかしくなって話題を戻すと、智夜さんは首を傾げて目を細めた。
「えー、まだ言ってるの?」
「あ、当たり前ですよ!私たちは本当の……」
「俺の妻だよ?」
"本当の夫婦じゃない"そう言おうとした言葉を遮られるから、一瞬思考が止まる。
「彩里ちゃんは俺の妻で、俺たち夫婦なんだから」
「えっ!?でも、契約……」
思わず口にしかけた瞬間、智夜さんの人差し指が私の口許に軽く当てられる。
内緒だということは理解できるけど。
「あ、朝士くん……そうだ!朝士くんが、知ってたんですけど。私たちの契約のこと……」
小声で慌てると、智夜さんは少し困ったように笑った。
「あー、あいつに秘密事は難しかったかな」
それでもどこか楽しそうに、
「朝士にはちゃんと言っとかないとまずいからね」
「なん…」
「でもさ、彩里ちゃんよく考えようよ。一緒に住んでるし、一緒にご飯も食べるしさ。こうやって一緒にリビングで世間話して笑ってさ」
指折り数えるみたいにして、言葉を続けていく。
「それって、ほぼ家族じゃない?」
「ほぼって何ですか!」
「まぁまぁ。彩里ちゃんがここにいてくれると、助かるのは本当だし。柊も朝士も懐いてるしね」
え、そっか……あの2人懐いてくれてるのかな。1人大きな子供だけど。少しだけ、頬がゆるむ。
「彩里ちゃんが、ここを出て行きたいって思うまでは、ここに居ていいからね」
なんて、智夜さんはいつもと変わらない穏やかな笑顔を見せるけど。
その言い方、私が望めば、いつでも終われる関係みたいで──、
胸の奥に、うまく言えない感情が広がっていく。