桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
ウィィィーンと、低い振動音が診察室に響いた。
先生がカッターでギブスに切れ目を入れて、今まで私の足を固定していたモノがゆっくりと外される。
「わ、外れた……」
「骨もキレイにくっついてるけど、まだ完全じゃないから、しばらくは無理しないでね~」
先生は笑いながら、そう口にして外したギブスを隣に立つ看護師さんへ渡した。
長かった3週間──。
右足を動かすと、軽いのに自分の足じゃないような不思議な感覚が残るけど。それでも、私のギブスがやっと外れた。
「彩里、良かったなー!」
「……そうだね」
帰りの車の中。朝士くんが明るい声を出した。
あの日以来、彼とは最低限の会話しかしていない状態が続いていた。
「無事ギブス外れたな!」
「……」
「これで自由だな……」
「……」
「あのさ、悪かっ…」
「前見て運転して」
「……はい」
気まずい空気が、車内に広がっている。相変わらず、運転は危ないし。反省もしてないし。
まぁ、大学の課題とかでキャンプ場の方に来ない日もあったし、毎日会っていたわけじゃないけど。
「きゃはは。何もー、彩里ちゃん朝士と喧嘩してんの?どーせあいつがデレカシーの無いこと言ったんでしょー?」
「けんかー??」
茉昼ちゃんの笑い声に続いて、柊くんが首を傾げて目をパチパチとさせる。
「まぁ、何があったかは知らないけどさ。許してやってよ」
なんて智夜さんが穏やかに口にするけど、彼の顔を直視できない。
何があったか、知ってるくせに──。
智夜さんは朝士くんとキスをしていた事について、何も聞いてこない。
いつも通り、ご飯を作ってくれて、コーヒーもいれてくれて、変わらない穏やかな顔を向けてくれる。
あの出来事が、まるで夢だったんじゃないかって勘違いしそうになる。
「ねぇねぇ!!彩里ちゃん、今日さー、ギブス取れたお祝いに女子会やろうよ!管理棟の前にテント貼ってさ!」