桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
智夜さんが溜め息を吐いて、彼女を抱き上げた。
茉昼ちゃんも当たり前のように、彼の肩に手を回す。
「智ちゃん、今日ね~、彩里ちゃんがね、きゃはは~」
「ははっ、楽しかったんだね」
「うん!!」
ぼーっとする頭の中、ぼんやりと2人を眺める。なんか、まるで映画の2人みたい……。
私の視線に気が付いたのか、智夜さんが私の方に顔を向けて口を開いた。
「彩里ちゃんも、そうとう顔赤いけど。茉昼に飲まされた?」
「え、あ……え?」
「うわー、茉昼が無理させたんでしょ?」
「ぜんぜん……です、よ、私もたのしかったですし、……はい」
呂律が半分回らない状態でそう言えば、
「そりゃよかった」
なんて、智夜さんの笑い声と茉昼ちゃんの「ねー」という楽しそうな声が聞こえてくる。
智夜さんが茉昼ちゃんを抱えたまま屈んで、テントの中へ半分体を入れる。
「ちょっと、ねー、私まだ元気なんだけどー!!」
「はい、はい。そうだね」
「まだ、寝ないしー!!」
智夜さんの背中でよく見えないけど、テント内のコットの上に茉昼ちゃんを寝かせてるみたい。
「うん、おやすみ」
優しくて、穏やかな声のトーン。
茉昼ちゃんが本当に大切にされているんだなって伝わってくる。
頭の片隅に、母親の声が響いた。
また無理だったの──?
あんたは欠陥品ね……本当に可哀相な子だわ
そして、和生の言葉も、ずっと胸の奥で残っている。
──俺、やっぱり子供が欲しいしさ
いいな……私も、こんなふうに大切にされてみたかった。優しい言葉が欲しかった。受け入れて欲しかった。羨ましくて、唇をぎゅっと噛み締める。
「大丈夫?」
「え、あ……え?」
「彩里ちゃんは?歩ける?」
前屈みでテントから出てきた智夜さんが、私に目を向けた。
「へーき、です……」
立ち上がろうとした瞬間、ふらっとして、智夜さんと距離が近くなる。と、同時にふわりと抱えあげられた。
「ふらふらじゃん。ははは、お姫様抱っこ、久しぶりだね」
智夜さんが目を細めて笑うから、彼の優しさに胸がぎゅっと痛くなった。