桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
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和生は、会社の2つ上の先輩だった。
何かと気にかけてくれて、仕事のフォローをしてくれたり、相談に乗ってくれたり。
気づけば2人で食事をするようになって、付き合い始めるまで時間はかからなかった。
「和生……、どうしよう赤ちゃんできたみたい」
「え?」
「検査薬やってみたら、陽性で」
「……マジで!? え、嘘だろ?」
一瞬の沈黙のあと、和生は顔を上げて笑った。
「俺たち、結婚しようぜ!」
順番は逆だったけど、和生はすごく喜んでくれたから。私もすごく嬉しかった。
体裁を気にする母には色々言われたけど。
でも、職場に報告して、籍を入れて、2人で住む部屋を決めて。全てがスムーズで順調だった。
和生とお腹の赤ちゃんの3人で幸せになると、そう信じて疑わなかった。
「赤ちゃんの心拍が、確認できませんでした」
「……え?」
何を言われたのか、すぐには理解できなかった。
産婦人科の先生の口が動いているのに、うまく聞き取れない。
「心拍が、止まってしまっているようです」
止まっている?
「……え、前、確認できたって、」
やっと言葉を絞り出すと、先生は首を横に振った。
自分のお腹にゆっくりと手を当てる。
え?頭の中が真っ白になって、何も考えられなかった。
処置の説明を受けて、同意書にサインをして。
気がつけば、全部終わっていた。
「彩里、大丈夫だった?」
和生はすぐに駆け付けてくれた。
すごく、心配してくれた。
「まぁ、看護師さんも言ってたけど。初期はよくあることらしいし……」
和生にとっては私を元気づけようとした言葉なのかもしれない。
「彩里まだ若いからさ、すぐ次があるって」
「……あ、うん」
「な?大丈夫だって」
次……、って何?次の赤ちゃんってこと?
私、まだそんなこと、考えられないんだけど。
ここからだろうか──。
違和感が少しずつ膨れ上がって、何かが少しずつ噛み合わなくなっていったのは。