桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~




「よかった。彩里の方から連絡くれて」


舗装されていない砂利道。木影の隙間から、残暑の光が差し込む。
さっき、和生と再会した場所で待ち合わせをした。



「今日ここにきた理由って、書類にサインだよね?」

「……あ、まぁ」

和生が鞄から書類をだして、私に差し出す。
続いてペンを取り出した。

封筒を下敷きにして、"桐田 彩里"と自分の名前を書いていく。

名字が変わったのは、3度目だ。
和生と結婚して「山中」。離婚して旧姓の「白河」に戻って、智夜さんと再婚して今の「桐田」となった。



「はい。これで、終わりだね」

「あ、あぁ、うん……」

和生が歯切れの悪い返事をみせる。
言いたいことがあるのに、なかなか言い出せない。
変わってないなぁ、なんて小さな息がもれる。

1度好きになった相手だからだろうか。これも、弱みなのかもしれない。


「郵送でもさ、すむのに……。なんでこんな遠いところまで来ようと思ったの?」

「あー……、ずっと気になってた。俺、彩里にひどいこと言ったし」

「……」

「自分の子供が欲しいとか」

「それね、すごく傷ついた」

「そうだよな、ごめん!俺、お前、無職だったのに離婚しちゃったし」

そうだよ、私、どん底だったんだよ?


「かと思えば、再婚して他県いったって聞いてさ」

契約結婚だし、それに……早く逃げ出したかったしね。


「はやっ!て、びっくりしてさ。でさ、ずっと気になってて……で、SNSが久しぶりに更新されてたじゃん。みたら、なんか……すげー楽しくやってんだなって思って……」

軽く言ってくれるけど、泣いて、泣いて、泣いて過ごして。茉昼ちゃんと智夜さんに拾ってもらえたんだよ。


「だから……、顔見たくなって。今、幸せなのかって、ちゃんと聞きたくて」



「うん。ここが、私の居場所なの……」


和生が「良かった」そう言って、顔をくしゃりと崩して変わらない笑顔を見せた。


「なんか困った事があれば、いつでも連絡していいから」

「もう、しないよ」

顔も見たくなかったはずなのに、心のどこかが少しだけ寂しくなるのを感じる。

彼の背中を見送ってから、後ろを振り返れば──。






「……あれが、彩里の前の旦那か」


朝士くんが、植木の陰からそっと顔を覗かせた。



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