桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「俺、人付き合いとかさ、あんま得意じゃなくて。やらかしちゃうことも多いんだけど」
朝士くんが視線を下に向けたまま、ぽつりぽつりと言葉を続けていく。
「ここでぼんりやり空眺めてると、すごく落ち着くんだ」
「そうなんだ」
「彩里、昼間さ……ここが居場所だーって言ってたじゃん?」
「……あ、うん」
「このツリーハウスが、俺の居場所なんだ。智夜が作ってくれたんだ、俺の居場所!なんか、彩里に見せたくなってさ!!」
「素敵……。すごく大事にしたくなる場所だね」
「だろ?元気出るんだよ。復活、みたいな」
「あは、復活?」
「おう。復活!」
「あー、うん。確かに私も今、すごく復活できた気がする」
「ここもいつでも来ていいからな!鍵だいたいしてないし!」
「いや、防犯!」
声を出して笑うと、朝士くんがはにかむように小さく笑顔を見せた。
それから、少しだけ真面目な顔になって口を開く。
「俺さ、彩里が笑うと……、めちゃくちゃ嬉しいんだ」
「えー、なにそれ?」
「大学行ってもさ、彩里いま何してんかなー?とか考えちゃうしさ」
「……ん?」
「なんていうかさ、心があったかくなるっていうかさ。ずっと隣にいたいなーとか」
夏の終わりの空気が、通りすぎていく。
まるで、時間が止まったかのように、静かにゆっくりと。
「俺、彩里のこと好きだ」
「……え?」
けど、次の瞬間──、
「あっ、そうだ!彩里、チョコ好きだって言ってただろ?」
「え?……え、と」
「このアポロの手作りキットやろうぜ!俺の特別なおやつなんだ!」
さっきの空気なんてなかったみたいに、朝士くんが子供のように純粋に目を輝かせはじめるから。
「……は?」
今の、なに?
夜空の星が、やけに遠く感じた。