桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
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「私たち、このあと一旦ホテル戻ってから観光行こうと思ってるんだ」
「そっか、楽しんできてね」
ゆうか達は、キャンプ場ではなくホテルに泊まるらしい。
……まあ、妊娠してるし。その方が安心だよね。
手を振って見送って、姿が見えなくなるまで、なんとなくその場に立ち尽くしてしまった。
「彩里ちゃん、これ、スマホ忘れてる」
「あ、ゆうかのだ」
智夜さんの声にテーブルへ目を向けると、置きっぱなしのスマホが目に入った。
キャンプ場からホテルまでは、歩いて10分程度。
少し急げば、まだ追いつける距離だ。
「ゆうか~!!」
「彩里?え、なに?めっちゃ走ってきたじゃん」
ホテルの入り口で、ようやくゆうかと小倉くんの後ろ姿を見つけた。
「はぁ、はぁ……スマホ……」
「あ、本当だ、私のだ。全然気付かなかった、ありがとう~」
ポケットからスマホを差し出すと、ゆうかがそれを受け取る。
「良かった、間に合って……智夜さんがテーブルにあるの見つけてくれて」
「わぁ、智夜さんに感謝だね。……うん、安心した」
「……え?」
はぁはぁと息切れをしながら、顔を上げると、ゆうかが穏やかな笑みを浮かべた。
「心配してたんだよ、大変な時期にちゃんと話も何も聞いてあげられなかったし、全部が急だったし。彩里が幸せそうで本当に……私、嬉しいんだよ!」
「……」
「超羨ましいよ。あんな旦那さんがいたら、もう彩里のこと任せるしかないよね」
「そ、そうかな」
へへっと、右手を頭の後ろに回した。
ゆうかが、小倉くんに「ねー」なんて同意を求めて、「俺の立場は?」と小倉くんが突っ込みを入れている。
私にとっては、目の前にいる2人の方が、本物ので羨ましいんだけどな──。
胸がズキンと痛んだところで、
「彩里ちゃん?お知り合いかしら?」
智夜さんのお母さんがフロントから顔を出してくるから、驚いた。
そうだよね、ここで働いてるんだもんね。バッタリ会う可能性だってあるよね。
「あらあら、こちらのお客様、彩里ちゃんのお友達だったの?」
「あ、はい」
「もー、言ってくれれば良かったのに」
にっこりと目を細めて、ゆうかのお腹にチラリと視線を向けて、何気ない調子で言葉を続けていく。
「いいわねぇ。何ヵ月に入るのかしら?」
「あ、3ヶ月です」
「楽しみね。うちも早く孫が欲しいわ~」
智夜さんのお母さんの質問に、ゆうかが一瞬私の方に視線を向けて気まずそな表情を見せるから。
そんな顔……、しないでよ。
大丈夫だよ、とは言いきれないけど。もう、ちゃんと笑えるから。
私、上手く笑えてるかな──。
「母さん、父さんが探してた。フロント戻って」
後ろから聞き覚えのある声が耳にはいるから、 振り返ると朝士くんが立っていた。