桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~



***



「私たち、このあと一旦ホテル戻ってから観光行こうと思ってるんだ」

「そっか、楽しんできてね」

ゆうか達は、キャンプ場ではなくホテルに泊まるらしい。
……まあ、妊娠してるし。その方が安心だよね。

手を振って見送って、姿が見えなくなるまで、なんとなくその場に立ち尽くしてしまった。


「彩里ちゃん、これ、スマホ忘れてる」

「あ、ゆうかのだ」

智夜さんの声にテーブルへ目を向けると、置きっぱなしのスマホが目に入った。

キャンプ場からホテルまでは、歩いて10分程度。
少し急げば、まだ追いつける距離だ。




「ゆうか~!!」

「彩里?え、なに?めっちゃ走ってきたじゃん」


ホテルの入り口で、ようやくゆうかと小倉くんの後ろ姿を見つけた。


「はぁ、はぁ……スマホ……」

「あ、本当だ、私のだ。全然気付かなかった、ありがとう~」

ポケットからスマホを差し出すと、ゆうかがそれを受け取る。


「良かった、間に合って……智夜さんがテーブルにあるの見つけてくれて」

「わぁ、智夜さんに感謝だね。……うん、安心した」

「……え?」

はぁはぁと息切れをしながら、顔を上げると、ゆうかが穏やかな笑みを浮かべた。


「心配してたんだよ、大変な時期にちゃんと話も何も聞いてあげられなかったし、全部が急だったし。彩里が幸せそうで本当に……私、嬉しいんだよ!」

「……」

「超羨ましいよ。あんな旦那さんがいたら、もう彩里のこと任せるしかないよね」

「そ、そうかな」

へへっと、右手を頭の後ろに回した。
ゆうかが、小倉くんに「ねー」なんて同意を求めて、「俺の立場は?」と小倉くんが突っ込みを入れている。

私にとっては、目の前にいる2人の方が、本物ので羨ましいんだけどな──。

胸がズキンと痛んだところで、




「彩里ちゃん?お知り合いかしら?」

智夜さんのお母さんがフロントから顔を出してくるから、驚いた。
そうだよね、ここで働いてるんだもんね。バッタリ会う可能性だってあるよね。


「あらあら、こちらのお客様、彩里ちゃんのお友達だったの?」

「あ、はい」

「もー、言ってくれれば良かったのに」

にっこりと目を細めて、ゆうかのお腹にチラリと視線を向けて、何気ない調子で言葉を続けていく。


「いいわねぇ。何ヵ月に入るのかしら?」

「あ、3ヶ月です」

「楽しみね。うちも早く孫が欲しいわ~」

智夜さんのお母さんの質問に、ゆうかが一瞬私の方に視線を向けて気まずそな表情を見せるから。
そんな顔……、しないでよ。

大丈夫だよ、とは言いきれないけど。もう、ちゃんと笑えるから。

私、上手く笑えてるかな──。






「母さん、父さんが探してた。フロント戻って」

後ろから聞き覚えのある声が耳にはいるから、 振り返ると朝士くんが立っていた。




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