桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「さっきの、彩里の知り合いだったのか?」
「うん、高校の同級生。地元から遊びにきてくれて……観光してくるって」
「そんな仲悪い相手だったのか?」
「いやいや、全然……仲良しだったんだけど」
「元気ないからさ。どうしたんだよ」
「ううん。なんでもない」
「ほんとかよ」
朝士くんが、腰を屈ませて下から覗き込んでくるから、少しだけ距離が近くなる。
「アイツに何か言われたのか?」
「アイツって、お義母さんのこと?」
「そう。あの人、俺苦手」
──あの子、風変わりな子でしょ?
義母が前に話していた台詞を思い出す。
「突然、出てきてさー、母親面するんだぜ」
心底嫌そうに眉間にシワを寄せる朝士くんがいて、朝士くんとお義母さん、お互い合わないんだろうなと納得する。
「別に、何も言われてないよ」
「ならいいけど」
もしかして、私が困ってると思って声かけてくれたのかな?
……いや、朝士くんに限って、それはないか。
「彩里さ、俺の部屋こない?」
「は?なんで?」
「なんだよ、その顔」
「えー、だって。朝士くん、前科ありまくりじゃん」
「何もしねーよ。ただ……」
ホテルのすぐ隣に、和風の本宅がある。
義理の両親と、朝士くん、茉昼ちゃん、柊くんの5人が暮らしている家だ。
門扉を開けて中に入ると、足元には雑草が伸びている。
この敷地に足を踏み入れるのは、これが初めてだった。
「そっか、朝士くんこっちが本当のお家だっけ?いつもうちにいたから、半分忘れてたよ」
「確かにな。着替えと、寝るくらいだし」
玄関を開けると、ひんやりとした広い土間が広がっていた。
大人用と子供用の靴が散らばって、傘やホウキ、使われなくなった古い椅子まで置かれている。
靴を脱いで木の段を上がり、廊下へ出ると。そこにもスーパーの袋や荷物が端に寄せられるよう置かれていた。