桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「は?普通?普通は普通じゃね?」
「……朝士くんに聞いた私が馬鹿だった」
右手を額に当てて大きな溜め息をついた。
少し間が空いてから、朝士くんがぽつりと言葉を落としていく。
「いや、だってさ。……なんだろうな普通って。昔さ、親に言われたことあるんだよ。"なんで普通に、他の子と同じようにできないの?"って」
あんまり、思い出したくないのだろうか。
話を続ける朝士くんの視線が下を向いたり、右へ反らしたり少し辛そうに見えた。
「俺、よく分かんなくてさ。俺は俺なのに、何で皆で同じ事して、同じように動かなくちゃいけないのか」
「……」
「だからかもな。俺、"普通"って言葉あんまり好きじゃない」
「そっか」
一気に静かになって、私たちの視線は目の前の水槽に向けられる。
「えっーと、ほら、私、智夜さんと普通の結婚じゃないでしょ?」
「あ?あぁ」
ゆうか達の後ろ姿を思い出して、モヤモヤと心にモヤがかかったような気持ちになる。
あれが、普通の夫婦なんだ。
普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に子供を育てていく。
私も昔、支えあって、一緒に生きようとした相手がいたけれど。
「子供の頃ね、当たり前だと思ってたの。自分が結婚して、子供を産んで、家族を作る未来を何も疑わなかった……そういうの考えたことない?」
「俺は考えたことなかったな」
「まぁ、朝士くんは男の子だし、まだ若いから、そういうイメージしたことないかもしれないけど」
「……今、ちょっと考えてみたけど。やっぱ、イメージ湧かねーな」
「10年後とか、どうなってるか考えたりしない?」
「……俺が29、茉昼が36、智夜は40のおっさん、柊が12で、彩里が35だろ」
「年齢の話じゃないんだけど」
「いやでもさー、柊が中学生かぁ。どんなガキになってんだろうな?」
「私、身長抜かされてるかも」
「彩里小さいからな」
「そりゃ、朝士くんよりは小さいけど平均身長です!」
なんて返せば、朝士くんが笑いながら私の頭をバシバシと軽く叩いた。
「5人で夜、焚き火とかしてさ、ワイワイやってそーだよな!」
──"5人"って、私も含まれてるんだ。
胸がギュッとなって、じわじわと広がっていく。