桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「わ、私も……?」
「あぁ、35の彩里も」
朝士くんが目を細めて口元を緩めるから、智夜さんの笑い方と似ていて驚いた。
なんだろう、胸の奥がぐっとなって少しおかしい気がする。
「普通に結婚して、子どもできてってさ。別に悪いとは思わねーけど、それが当たり前って考えは、俺にはよく分かんねーな」
確かに、全員が私の考える普通を望んでいるわけじゃない。
「彩里は、それを望んでるのか?それとも、"普通"だからそう思ってるだけなのか?」
「……分からない」
普通じゃない結婚。普通じゃない関係。普通じゃない──。
でも、その"普通"って、誰が決めるのだろうか。
視線を落としたまま、ぽつりと口を開く。
「朝士くん、あのさ。私のこと好きだって言ったじゃない?あれ、本気?」
「え、まあ、多分」
「私、一応、智夜さんと結婚してるんだよ」
「知ってる」
「それに、朝士くんまだ19歳でしょ?年も6歳も離れてるしさ」
「……」
「嫌いではないけど、無理だよ」
そうだよ、私、既婚者なんだから。自由に恋愛なんてしていい身分じゃないし。朝士くんから向けられる好意に、動揺していい立場じゃない。
目の前の水槽の水が、ゆらゆら揺れた。
ぬぼーっとウーパールーパーが動いている。
「普通に考えて、無理ってことか?」
「え、あ……うん」
「──そっか。じゃぁ、しょうがねぇな」
「うん、ごめん」
「なぁ、モモに餌やってみるか?」
「……え?いいの?」
朝士くんが水槽のすぐ横にある餌を差し出される。
言われるまま、餌を受け取って、水面に落とした。
モモがゆっくり近づいてきて、ぱくりと飲み込んだ。
その様子を、私と朝士くん、2人並んでぼんやりと見ていた。
──普通って、なんだろう。
答えは、まだ分からないまま。