桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「……あれ、クリーム?」
「手、荒れてたから」
ハンドクリームは消耗品だし、形に残らないから丁度いい。なんて、選んだものだったけど。
「なんだよ、女子みてー。ひゃはは」
笑いながら、朝士くんはキャップを開ける。そして、手のひらに勢いよくクリームを出した。
「ちょっ、出しすぎ!」
「えー?」
「それ絶対あまるじゃん、もー」
呆れた声を出すと、朝士くんは自分の手のひらを見て楽しそうに肩を揺らす。
「知らねーし」
「もったいないなぁ」
「じゃあ、半分やる」
「え?」
言うが早いか、朝士くんは私の手首をぐいっと軽く掴んで。そのまま、自分の手についたクリームをぐっとつけてきた。
「ちょ、ちょっと……」
むにゅむにゅとクリームを手のひらに伸ばされていくから、ちょっとだけくすぐったい。
「彩里の手、小さいなー」
「あ、朝士くんの手は……大きいね」
なんだろう、この空気。さっきまで普通だったのに。
触れられたところが、じんわり熱を持っている気がした。
朝士くんの手、こんなにゴツゴツしてたんだ。
この手で、色んなものを作ってるんだろうな。
「そうか? ……あ、こっち彩里も来いよ」
手に残ったクリームを自身の手に伸ばしながら、軽いトーンの声が続けられる。
「え?」
「あかねがさ、女子1人じゃさみしいとか言ってたぞ」
偏見かもしれないけど、あの派手な子が本当に寂しいのかな。あんまり想像つかないな。
そういえば、朝士くんの初キス、あかねちゃんだって言ってたっけ。
なんで、キスなんてしたんだろう。
て、私……何考えてるの。
「私はいいや」
「え~、彩里来ないとつまんねぇよ」
「なにそれ、駄々っ子じゃないんだから」
「俺、今日誕生日なんだけど」
「……さっきも聞いた」
「主役のお願い、断るのかよ?」
ふざけた調子で唇を尖らせるけど。
そんな言い方されたら、断れないじゃん。