桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
10.5カコノフタリゴト
「うぇっ、ひっく……うぇぇぇ……」
夕日に染まる公園の隅に、小さな影が落ちていた。
遊具の端には、無造作にランドセルが置かれている。
「茉昼、悪くないのにぃ……うぅ……」
泣いて擦りすぎたのだろう。目元は真っ赤に腫れて、鼻を啜る音が静かな公園に響いていた。
辺りを見回しても、数ヶ月前まで一緒に遊んでいた女の子の姿は見当たらない。
「智ちゃぁん……ううっ」
気付かれないよう小さく息を吐いて、幼い茉昼の手を取ると。小さな手が俺の手のひらをぎゅっと握り返した。
「おいで。朝士のこと迎えに行こう」
しゃくり上げながら俯く茉昼の頭に、ぽんと手を置くと、茉昼が少しずつ言葉を落としていく。
「……✕✕ちゃんがね」
「うん」
「あたしのこと仲間外れにする。遊んでくれなかった」
「んー……喧嘩しちゃった?」
「ち、違うもん」
「……うん」
茉昼は昔から、1人の子とべったり仲良くしたがるところがあった。
その子が別の友達と遊ぶと怒るし、間に入って邪魔をしてしまう。それが原因で、せっかく出来た友達とも長続きしない。
再び泣き出した茉昼を見て、俺はポケットからぐしゃぐしゃのハンカチを取り出した。
「ほら」
「やだぁ……汚い」
「洗濯してあるよ、畳んでないだけで」
「じゃあ、智ちゃんが拭いて……」
唇を尖らせる茉昼に、思わず苦笑が漏れる。
「はいはい、お姫様」
そう言いながら、茉昼の涙をそっと拭った。
「……帰りたくないー」
涙声のまま、茉昼が俺の制服の裾をぎゅっと掴む。
「なんで」
「だって、ママもパパも、まだ帰ってないでしょ……」
「じゃぁさ、朝士迎え行ったらコンビニでアイスでも買おうか」
「うん!!」
さっきまで泣いていた茉昼に笑顔が戻るから、本当に単純というか、切り替えが早いというか。
いつの間にか、茉昼を慰める役は俺になっていた。