桐田家のヒミツゴト~秘密の契約結婚からはじまる恋~
「こんちは~、お邪魔しました」
奥の部屋から出てきた男子が、慌てた様子で頭を下げてきた。
気まずそうな顔をして、逃げるようにそのまま玄関を飛び出して行くから、その背中を見送る。
「今日は、もう帰って……」
隣に立つ彼女にそう言えば、
「えー!せっかく来たのに~」
不満そうに甲高い声を出したが、適当に理由をつけて帰って貰った。
この間まで、公園で泣いていた茉昼が、男とそういう行為をするようになっていたなんて──。
まだ、中学生。そう思う反面。俺も中学生だったしな……。と、人のこといえない立場だった。
「茉昼、入るぞ」
ノックして扉を開けた瞬間、むっとした空気が鼻につく。
乱れたシーツ。 皺がついた制服。
脱ぎ捨てられた白いハイソックスとリボンが、床に落ちているのを見て、事後という事をすぐに理解した。
「……なに?」
ベッドの上で、茉昼が不機嫌そうにスマホに視線を落としている。
中学生って、避妊とかちゃんとしてるのだろうか。俺もその頃、まともな知識なんてなかったし。
「あのさ、さっきの奴、彼氏?」
「そうだけど、お兄ちゃんに関係ないじゃん」
「あー……茉昼さ」
言葉を探しながら、頭を掻く。
「ちゃんと、つけてる?」
と口にした瞬間、茉昼がぱっと顔を俺の方へ向けた。
「つけるって、何を?」
「……」
「教えてよ」
挑発みたいにハッと鼻で笑いながら、茉昼が口角を片方だけ上げる。
「教えられないなら、ほっといて」
「……分かった。ちょっと待ってろ」
兄としての心配なのか。 それとも、茉昼の挑発に乗せられたのか。
自分でも分からないまま、自分の部屋に入り、引き出しから避妊具を取り出した。
そして、俺は茉昼との間の床上にソレを置いた。
「相手、ちゃんとつけてた?」
「分かんない」
茉昼は箱からゴムを1つ取り出すと、物珍しそうにじっと眺めた。
「廊下の棚に置いとくから、そこから使って」
「なんで、お兄ちゃんにそんな事まで口出されなきゃいけないの?」
「茉昼が……、心配だからだよ」
そう伝えると、茉昼が目を丸くなって。さっきまで尖っていた表情が、ほんの少しだけ柔いだように見えた。
そして、ご機嫌そうに笑いながら避妊具の箱を指先で弄りはじめる。
まだ幼さが残る表情を見ながら、俺は小さく息を吐いた。