トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
 仮装で歩くなんて初めてで緊張して、だけどわくわくした。

 普段しないことをするってこんなに楽しいんだ、と気づかされた。
 この発見は日樫くんのおかげだ。ますます彼のことが好きになっちゃいそう。

 ちょっと憎たらしい気持ちになって彼を見るが、彼はかぼちゃをかぶっているからまったく表情がわからなくて、なんだかずるい。

 その後は仮装を脱いで、彼が予約してくれたカジュアルなレストランで食事を楽しんだ。
 軽くお酒も入って、私たちはほろ酔いでお店を出る。
 楽しくて楽しくて、私は足元がふわふわしていた。

「まだけっこう人がいるな」
 日樫くんがつぶやく。
 時間はもう二十二時をまわったところだ。

「あ! 日樫さん!」
 かわいい声が飛んできた。
 金本さんだった。友達らしき女性と一緒にミニスカートのメイド服を着ていて、猫耳をつけている。

「こんばんは」
 彼は営業スマイルで答えた。

「先約って、麻川さんだったんですか」
 彼女はじろじろと私を見て来る。自分を断って私と一緒にいるのが不満だ、とその顔には書かれている。

 金本さんはわかっているのだ。女性として私より自分のほうが上だってこと。
 そんなの私だってわかってる。
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