トリックオアトリートな同期の日樫くんがあまくなる夜
 いたたまれなくて逸らした目にショーウィンドウのかぼちゃのにやにや笑いが映り、なんだか腹が立った。

「お母さんを迎えに行ったんだよね? 若いお母さんだね」
 隣にいる女性を見て日樫くんが言う。
 金本さんは私をぎっと睨む。

「結奈がなにか言ったわけじゃないよ。君の嘘は会社中にばればれってだけ」
「母は急に来られなくなったんです!」
 彼女は強気に言い訳をする。その根性がすごい。

「それより私、日樫さんに相談したいことがあって。今度、時間をとってもらえませんか?」
 彼女は両手を胸の前で組み、うるうると日樫くんを見つめる。

「無理」
 日樫は笑顔ではっきり断った。
 彼女は顔をひきつらせた。私も驚いて彼を見た。

「この際だから言うけど、仕事にかこつけてしょうもない話をされるの迷惑してたんだよね。しょっちゅう仕事さぼってるのもバレてるよ。派遣の更新はもうないかもね」
「……そんな」
 彼女は顔を青ざめさせた。

「じゃ、またね」
 日樫くんは笑顔で私の手をつかみ、彼女を放って歩き出した。
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