『変人・奇人の時代』~異質学を究める女性准教授の物語~【新編集版】
 本当なら遠慮してお(いとま)しなければいけないのだが、そんなことを口にする雰囲気ではなかったので、わたしはただグラスにスパークリングワインが注がれるのを見つめていた。

「久々の再会に」

 先見さんがグラスを掲げた。

「新型コロナが収まりますように」

 奥さんもグラスを掲げた。
 わたしは何も思いつかず、黙ってグラスを掲げた。

 マスクを外すと爽やかな酸味が鼻を刺激した。繊細な泡が口の中で弾けると、あとからほんのりと甘みを感じて、上品な飲み心地に思わず目を瞑ってしまった。

「今日はバル風の料理を楽しんでいただこうと思っていますのでお付き合いください」

 先見さんがわたしに笑みを向けるのを見て奥さんが席を立ち、台所に向かった。

「スペインに行った時にはまっちゃいましてね」

 初めてヨーロッパ旅行を計画した時、どこにしようかと迷ったそうだが、料理好きな奥さんの希望を優先して美食の町〈サン・セバスチャン〉を選んだのだという。
 行ってみると大正解で、特にバル巡りが楽しくて連日舌鼓を打ったのだそうだ。それ以来、CAVAとピンチョスを家でもよく合わせるのだという。

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