『変人・奇人の時代』~異質学を究める女性准教授の物語~【新編集版】
 皿が空っぽになると、奥さんはそれをトレイに乗せて台所へ行き、しばらくして新たな皿を運んできた。

「箸休めにどうぞ」

 スペイン風オムレツだという。中にジャガイモと玉ねぎとトマトがぎっちり詰まってボリューム満点。箸休めどころか箸進めになってしまった。
 
 もうそろそろお腹いっぱいかも、と思っていたら食欲をそそる匂いが近づいてきた。パエリアだった。ムール貝、アサリ、エビ、イカに加えて何色ものパプリカが彩りを添え、サフランの黄色が唾液を誘発した。
 
 装ってもらった皿から一口食べると、異次元の美味しさが口の中に広がった。思わずボーノと言いそうになったが、スペイン語ではないと気づいて脳の海馬に刺激を与えた。するとすぐに見つかった。

「デリシオーソ♪」

 しかし右の人差し指を頬に当てていたので、言葉はスペイン、動作はイタリアだった。
 それがおかしかったのか奥さんがくすっと笑ったが、とてもかわいい笑顔だった。先見さんが惚れた理由がわかったような気がした。

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