『変人・奇人の時代』~異質学を究める女性准教授の物語~【新編集版】
 満腹になってお腹を擦っていると、奥さんが台所に向かい、すぐに戻ってきた。

「素敵なお土産をありがとうございました」

 プチケーキの詰め合わせと紅茶がテーブルに置かれたので、2人に先に選んでいただき、わたしはマンゴータルトを取った。

 それを食べ終わって、「夕食前にお暇しなければいけないのに、厚かましくご馳走になってしまって」と詫びようとすると、言い終わる前に2人が揃って頭を振り右手を振った。完全に同期していた。

「私たちには子供がいませんし、コロナの影響で友人が来ることもないので2人で静かに食事をすることが多かったのですけど、今日は久し振りに楽しい夕食になりました」

「無理矢理だったかもしれませんが、お付き合いいただいてありがとうございました。2人が3人になるだけでこんなに楽しい食事になることを再認識しました。また是非ご一緒下さいね」

 先見さんに続いて奥さんまで言葉を添えてくれたせいか、温かくて優しい空気に包まれてなんだかフワフワとした気持ちになった。
 でも、そろそろお暇しなければいけないと思ってそれを切り出そうとしたが、「まだ7時だからもう少しいいでしょ?」という先見さんの声に遮られた。話し足りないからもうしばらく付き合って欲しいという。
 奥さんは先見さんの袖を引っ張ったが、「いいですよね」と勝手に決められてしまった。

「ごめんなさい、強引で」

 頭を下げる奥さんを尻目に「さてと」と言いながら先見さんが立ち上がった。
 少しして小さなグラスを3個と細長いボトルを持って戻ってきた。ポートワインだという。世界三大酒精強化ワインの一つで、ポルトガル第2の都市、ポルトで造られた酒だった。

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