バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます


「恵子さん」

寝たきりかと思っていた恵子が、杖をついたまま立っている。
白髪はボサボサで、寝間着の裾も乱れている。
こんな姿になっているなんて、どれだけずさんな介護を受けていたのだろう。

弱り切っているはずの恵子が、手にしていた杖で洸太郎を打った。
打つというほどの力はないが、背中に向けて何度も打ちつける。

鬼気迫るその姿に、洸太郎は驚いて声もだせないようだ。

その時、救急車のサイレンが聞こえてきた。
どんどん音が近づいてきて、邸の前で止まったようだ。

「まさか」

洸太郎の顔色が変わった。

「何てことしてくれたんだ!」

いきなり洸太郎が恵子を突き飛ばし、部屋を飛び出していった。

「恵子さんっ」

香耶が支えようとしたが間に合わず、恵子は頭から倒れてしまった。
ゴンっと鈍い音が聞こえるまで、まるでストップモーションの映像を見ているようだった。

「くそっ、緊急ブザーを押したようだ」

この屋敷は広いから、様々なセキュリティーシステムが備えられている。
恵子がいる離れには、すぐに救急車を呼べるブザーが設置されていたはずだ。

洸太郎と香耶が争っている気配を知って、恵子が押してくれたのだろう。

「しっかりしてください、恵子さん」

香耶はネクタイを解こうとするが外れない。手が動かせなくて、看護師としてなにも出来ないのだ。

患者が目の前にいるのに、これほど情けないことはない。

「誰か、誰か助けて」













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