バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます


それに目にするものすべてがバリアフリーだ。
これから若い夫婦が住むにしては奇妙に感じた。

ぼんやり洸太郎のあとについて歩いていたら、ひとつのドアを指差して「ここが君の部屋」と言った気がした。

「えっ?」

「君の」と聞こえたけれど「ふたり」の間違いではと思ったが、洸太郎がずんずんと廊下を進んでいく。
そして、一番奥で立ち止まった。
流水が描かれた襖を、洸太郎がガラリと開ける。

「私の祖母で、恵子という」

十二畳くらいの和室に、介護ベッドが置かれている。
老婦人が横になっていたが、突然襖が開けられたからかとても驚いた表情だ。

「はじめまして。香耶と申します。これからよろしくお願いいたします」

訳がわからないまま、香耶は嫁として洸太郎の祖母に丁寧に挨拶をした。

香耶の話す内容がわかったのか、祖母は穏やかな表情に戻った。
看護助手としてアルバイトした経験があるから、高齢の患者にも慣れている。
体は不自由だが、恵子の表情から思考がしっかりしていることはすぐにわかった。






< 29 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop