バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます
それに目にするものすべてがバリアフリーだ。
これから若い夫婦が住むにしては奇妙に感じた。
ぼんやり洸太郎のあとについて歩いていたら、ひとつのドアを指差して「ここが君の部屋」と言った気がした。
「えっ?」
「君の」と聞こえたけれど「ふたり」の間違いではと思ったが、洸太郎がずんずんと廊下を進んでいく。
そして、一番奥で立ち止まった。
流水が描かれた襖を、洸太郎がガラリと開ける。
「私の祖母で、恵子という」
十二畳くらいの和室に、介護ベッドが置かれている。
老婦人が横になっていたが、突然襖が開けられたからかとても驚いた表情だ。
「はじめまして。香耶と申します。これからよろしくお願いいたします」
訳がわからないまま、香耶は嫁として洸太郎の祖母に丁寧に挨拶をした。
香耶の話す内容がわかったのか、祖母は穏やかな表情に戻った。
看護助手としてアルバイトした経験があるから、高齢の患者にも慣れている。
体は不自由だが、恵子の表情から思考がしっかりしていることはすぐにわかった。