バツイチナースですが、私を嫌っていた救急医がなぜか溺愛してきます
「ここにサインしてくれ」
香耶は考える時間もなく、洸太郎が差し出した離婚届にサインをさせられた。
「では、私はすぐにここから出ていきます」
介護が必要な恵子のことは心配だが、新しい妻が来るのなら香耶は不要だろう。
一日でも早くここを出ていったほうが、お互いのためだと思って「出て行く」と告げた。
だが、ふたりの考えは違っていたらしい。
「いや、出て行かなくてもいい」
「え」
「このままここにいて、祖母の看護をすればいい」
「あの、どういうことでしょうか」
香耶が聞き返すと、洸太郎ではなく沙織が嬉々として話し始めた。
「私はお腹に赤ちゃんがいるから、あなたを看護師として雇うわ。ここで働いてちょうだい」
すでに自分の立場が上だと言わんばかりで、命令するような口調だ。
香耶が残るのが決定事項だと思っているのか、離婚届けを持った沙織が嬉しそうに離れから出ていった。
だが、洸太郎は動かない。
どうしたのかと思ったら、香耶のそばにきていきなり腕をつかんだ。
「なにをするの」
「お前は一生ここにいるんだ。今度はお前をかわいがってやる」
香耶を舐めるように見てくる目は、いつかのじっとりとしたものだ。
「古泉の家には帰れないだろう。愛人として、雇ってやるよ」
香耶の表情がこわばったのを確認してから、沙織のあとを追って行った。
(なんでこんなことに……どうすればいいの)
香耶が困り果てていたら、杖をついた恵子がゆっくりと歩いてきた。