ミーコの願い事 始まりの章 「ペンタスとヒトデ」
 ほんの少し切っ掛けの力を腕に入れると、今度はすごいスピードで動き出す。
 何も頭に浮かべていないのに、腕が覚えているかのように動いている。

 凄い、描き終わったことも腕を伝い、わかるようだわ。
 ありがとう神様。

 楽しみのように静かに目を開くと、そこには見覚えのあるガーゴイルが、片腕に頬を乗せ微笑んでいた。

「京子さん、京子さん」

 はしゃぐ蘭の声に顔を向けると、せかせるように話している。

「次は京子さんの順番ですよ」

「う、うん」

 何気なく二フレーム目のスコアを見ると、二人ともスペアを出していた。
 困惑しながらも一投目を放つと、二本だけ倒し二投目はガターになってしまった。
 私はその結果に動じることなく、先ほどのヒトデのペンのことを考えていた。
 
 描きやすいだけで、そんな不思議なことあるわけないか。

 少し残念に思いながら席に戻ると、順番待ちの蘭がガーゴイルを見て固てまっていた。

「何でまたここでも描いているのですか? 鉛筆じゃないから消せないじゃないですか」

 私はふざけるように仕上げの目を入れようとすると、蘭はすぐさま紙を持ち上げ、私から遠ざけていた。

「社長、京子さんがいじめます」

 喜びふざけ合う私達を観ていた先生は、静かに紙を受け取ると、軽い力で何かを描き始めていた。

「はい」

 先生の合図とともに手渡されると、ガーゴイルの周りにお花畑で埋め尽くされている。

「社長面白いです。この絵からまるで意図が見えないですね」

「これなら怖くないでしょ。でも、ちょっとふざけすぎちゃったかしら」

 先生はおどけるように話し、普段では見せない仕草で軽く舌を出していた。
 
 レーンの方からは守君の悔しがる声が聞こえる。

「あっ。一本残した」

 その声に振り返ると、守君は言葉に反して笑顔で残ったピンを見つめ、指を鳴らしながら腕を大きく振っている。
 それらの光景が目に映ると、みんなの感情が伝わってくるようだった。

 楽しんでいるんだ。

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