最強術者であることを隠して自由に生きようと思っていましたが現最強術者の花嫁になり溺愛されるようになりました
走ってどれくらい経ったかは知らない。
気づけば思い出のある場所に着いた。
目の前にあるのは
葉っぱ一つもついてないただの大木樹だった。
今は何も咲き誇っていないが、春になれば満開の桜が咲いていた。それを毎年小さい頃、母に連れられて見に行っていた。だが母が亡くなってから一度も見に行っていなかった。
どうしてここに来たのか分からない。
思い出だったからではない。
何も咲き誇ってもいない大木樹を見て
何もない空っぽな自分と走っていた時に重なった。
だからここに来たのかもしれない。

寒さで凍える手、ガクガクと震える私の唇
そして裸足で歩いてきたせいで足の裏が酷く痛い。
傷があるのか真っ白な雪は赤く染まっていた。
このまま、死ぬのかな。私。
なら、いいかもしれない。
このまま、死んでも…。
生きる意味なんてない私はもう…。

そう思っていた時
後ろの方から、微かにエンジンの音が聞こえた。
舞花は震えながらも後ろを振り向くと、
そこに居たのはあの時、父を止めようとしていた
凛花がいた。車から自力で降りてきて。
「舞花様…っ!」
そう言ってあの時と同じ愕然とした表情をして
慌てて私の方に向かってくる。
「舞花様…」
そう言って自分の羽織りものを、舞花に着せる。
がしかし、着くまでに舞花はずっとここにいたせいで
羽織りものだけでは暖を取ることが出来ず
まだガクガクと震えていた。
「舞花さ…」
「凛花」
何度も自分を呼んでくる凛花に舞花は抱きつく。
瞳に光もなく、どこを向いているのかさっぱり分からない。がしかし、凛花の方に冷たい者がこぼれ落ちる。
舞花の涙だった。

そして力もなく曇った声で
呟いた。
「もう嫌だ。」





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