メガネを外したその先に

「風邪、引いたのか」


一人暮らしで引く風邪は、かなり堪える。

心配に思う反面、彼女の気持ちに何か変化があったわけではなかったのだと、理由を知ってどこかホッとしている自分もいた。


薬やら食べ物やらを適当に買って家へ向かう。

教師と元教え子の距離感を越えた行為にも思えたが、看病の一環だと自分になぜか言い訳をする。


「こういう時こそ、連絡して来いよ」

「迷惑、かけたくなかったから」


ベッドに横になった長谷川の前髪に手を伸ばしながら、甘えるのが苦手な彼女に一番に頼って欲しかったのだと自分の気持ちを悟った。