メガネを外したその先に
真っ先にお礼の言葉が出た。

先輩の気持ちは、素直に嬉しい。


「でも…」


伝え方に戸惑って視線を泳がせた私の口元を、先輩が咄嗟に右手で煽う。


「返事は今すぐじゃなくていい。考えといて。」


そう言い残して教室を出て行った先輩に、気持ちも言葉も宙ぶらりんのまま立ち尽くす私。


さっきまで先生一色だった私の頭の中に、先輩のことを考えるスペースが生まれる。

それが先輩の言う“考えといて”と同意義なのかは定かでないけれど、心を乱されていたのは間違いなかった。
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