メガネを外したその先に
下の名前を呼ぶタイミングを失ったまま、八月の終わりに地元の夏祭りへ行くことになった。


「浴衣かわいい」


浴衣姿を褒めてくれた先輩に照れ臭くなって。

人混みの中で自然と繋がれた手に、初めてではないのに一瞬戸惑いを覚えた。


りんご飴を食べ、金魚掬いをして、フランクフルトを囓り、射的をする。

風間先輩といると笑顔が絶えないのは、いつも先輩が私を楽しませてくれるから。


先輩と笑い合っている時間は、龍弥先生のことを考えなくて済む。

夏休みという長い時間があれば、先生への初恋も思い出の一つに変えられると思っていた。
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