【ご令嬢はいつでもシリーズ5】悪役令嬢の厄落とし! 一年契約の婚約者に妬かれても、節約して推しのライブ予約してあるので早く帰りたい。だめなら胃腸薬ください!
「お嬢様が倒れられた日のことは日記にはございませんので、私が見聞きしたお話を総合いたしますと……」
ベアトリスが王宮に向かったある日、城ではある式典が執り行われていた。国家の繁栄や興隆に貢献した者が集められ表されるという催しで、植物研究が趣味だというマーガレットに勲章が与えられることになっていた。
「え、まさか」
「そのまさかで、ベアトリスお嬢様はマーガレット子爵夫人のドレスをまた……」
毎度同じ手とは能がないというか工夫がないというか……。ところがその日は、寸でのところでエバン・クラークネスに捕まってしまったのだという。お陰で式典は万事無事に済んだそうだ。エバンはマーガレットの夫君であるデコラム子爵に対し個人的に傾倒していたこともあり、自発的な正義感から式典が終わるまでの間、休憩室にベアトリスを閉じ込めてずっと見張りをしたらしい。
「お、思いっきり要注意人物扱いされてるじゃん……」
「残念ながら……」
奇しくも、今度はそれが問題になった。多くの王族貴族たちの集まる式典の間、端から見るとエバンとベアトリスは黙ってふたりきりで雲隠れしたように映ったのだ。エバンは己の正義にのっとって良かれと思い、単独ベアトリスを見張っていただけで、やましいことは万に一つもなかった。だが、いつの間にか噂が独り歩きし、ふたりはやんごとなき仲で、式典の間中熱烈な密会していたということになっていた。その責任を取らせるという形で、ヴィリーバ子爵がなんと、無理やりエバンとベアトリスとの婚約を押し切ったのだという。
「ええっ……! エバンのほうはすごいとばっちりじゃん……!」
「体裁を大変気にされる旦那様のことですから、こういうときの手回しはそれは早く、関係各所を回り、国王陛下さえも解き伏して、どうにか一年の婚約を結び取ったのでございます」
お、恐るべし、お貴族様のご体裁……。ということは、エバンにとっては要注意人物と無理矢理婚約させられたってことか。
そりゃ、あの態度もうなずけるわ……。
「エバン様は大変憤慨なさったそうですが……、でもエバン様も悪いのです。そのとき誰かひとりでも他の者を側に置いておけば、このようなことにならずに済んだのです。その失態を責められて、噂が落ち着くまでの一年間、互いの名誉のために婚約するのがいいと、国王陛下が仰せになったそうで……」
それで一年契約の婚約者ってことなのね……。
建前上、婚約者を心配しているという体裁を取らなきゃならないから顔を見せに来たってことか。
はあ~、それはまあ、ほんとご苦労様です……。
「ええと……、そうすると、階段で倒れたって言うのは……?」
「あの、それは……」
へティが再び言いにくそうに目を伏せた。
「いいの、言って。私は事実を知る必要があるから」
「その、つまり……」
へティが言うことには、エバン以上にこの婚約に憤慨し大反対したのがベアトリスらしい。絶対に嫌だと言い張り、泣き叫び、わめき狂ったが、最後の最後、王宮に呼ばれ、国王陛下に直々に諭されたらしい。エバンとベアトリスは国王陛下の御前で、婚約の書類に調印させられたのだという。
「王様直々って、そんなおおごとに……?」
「デコラム子爵が間に入ってくださったのですが、ベアトリスお嬢様は姉のマーガレット様ともうまくいっておりませんし、火に油と申しますか、ある意味ではそれもあって、火種がよけいに大きくなってしまったのかと予想してございます」
ともかく、国王のとりなしによって一年の婚約が約束された。その帰り、どういうわけか、いやむしろなるべくしてというべきか、エバンとベアトリスは言い合いになったのだという。恥も外聞もなく、周りの制止も聞かず、ベアトリスは激しくエバンを罵ったらしい。エバンは始めじっと耐えていたが、終ぞ堪忍袋の緒が切れて、応戦に転じた。そのとき、たまたまベアトリスが王宮の大階段で足を踏み外し、一番下まで真っ逆さまに転げ落ちたのだという。
「かん口令は敷かれましたが、こうしたスキャンダルこそ人々は面白おかしく噂をするものでございまして……。愛憎は表裏一体、強すぎる愛は巡り巡って憎さも増すと……。もともとベアトリスお嬢様はいろんな意味で、社交界では噂になることが多かったこともありまして、天罰神罰が下ったと心無い噂もする者もおりまして……」
ちょ、ちょっと、強烈すぎでしょ……。
悪役令嬢というだけでもキャラが濃ゆいのに、それに加えて嫌われている相手との一年限りの婚約。その婚約すらも子爵の強引な押しの手だし、階段から転げ落ちたら心配されるどころか、天罰とまで言われるなんて、そうとうな嫌われ者じゃん!
「ベアトリス、ひっ……どいね……!」
思わず力を込めて言い放っていた。へティが慌てて頭を下げた。
「もっ、申し訳ございませんっ、お嬢様!」
「あ、いいの、へティ。私が聞きたくて聞いたんだから。話してくれてありがとう」
「え……」
へティが驚いたように目を丸くしている。
「あ、あの……、べ、ベアトリスお嬢様……」
「ん?」
「あの、ほ、本当に、お忘れ、なのですか……?」
「えっ、これ以上まだあるの? ベアトリスの悪女列伝」
へティがまたもポツポツ言い始めたことには、どうもベアトリスはへティをはじめ使用人たちにも横柄な態度を取り、我がままを言い困らせることが日常茶飯だったらしい。ドレスと帽子の組み合わせが気にいらないからと扇子や手鏡を投げつけてきたり、お茶に入れる砂糖の数を間違えただけで減給させられたり。日に日に気難しくなっていくベアトリスを、ヴィリーバ子爵と子爵夫人も最近では持て余すようになっていて、ベアトリスの機嫌を取るためになんでも言うがままなことが多いのだという。
「そ……そんな困った人だったのね、ベアトリス……」
「も、申し訳ございません……っ」
「う、ううん。ええと、その、なんか逆に、ごめんね……」
「と、とんでもございませんっ」
私じゃないけど、謝っておくよ……。
へティが肩をこわばらせながら何度も頭を垂れているのを見ると、使用人たちがベアトリスに怯えていたというのが改めてわかった。
「エリスお嬢様があんなことにならなければまだよかったのかもしれませんが……」
「あんなこと?」
そういえば、ベアトリスは三人姉妹って言ってたっけ。一番上の姉が、エリスって言うんだったよね?
「エ、エリスお嬢様は……、本来であれば婿を頂き、未来のヴィリーバ子爵家の女主人となるお方でした。ですが、突如本当の愛に目覚めたとかで、さる男爵家の殿方と駆け落ちを……」
「えっ、駆け落ち!?」
子爵家を守るべきエリスが突如姿を消し、その後窯としてベアトリスにその役目が巡ってきた。ヴィリーバ子爵にとっては頭の痛い問題だったろう。娘が家格の低い貴族と駆け落ちなんて外聞の悪いこと甚だしい。そこへ加えて、ベアトリスはエバンとの熱烈密会の噂。これでは一年であろうとも無理やり婚約という強行に出るのも、わからないでもないのかも……。
「えーと……エリスお姉様、今はどこに……?」
「駆け落ちと言いましても、お相手の男爵家には大した財もなく、縁故のあるさるお家にふたりで囲われているそうでございます。ですので、ベアトリスお嬢様が目を覚まされたことはもうエリスお嬢様にもお伝えしてございます。近々、ご機嫌伺いのお手紙を寄こしていらっしゃるでしょう」
ご、ご機嫌伺いって……。お、お貴族様って、なんかどうか、……のんびりしちゃってるのかなあ~……?
本当の愛に目覚めたから駆け落ちって、いくらなんでもちょっと短絡的すぎと思うし……。
まあ、エリスのこと、なにひとつ知らないけれども……。
「まあ、それはいいや。とりあえず、私が気を失ったのは、その王宮の大階段って言う場所なのね。そこへはどうやっていったらいいの?」
なにがどうなってこんなことになっているのかわからない。わからないし、興味もない。
今の私にとって大切なのは、日本に帰ること。
すぐにでも帰って、CRY BABYのライブに備えること、これ一択!
そのためには、多分、ベアトリスが転げて落ちたという階段をもう一度転げ落ちる必要があると思うんだよね。
転生ものとか精神入れ替わりもので、ありがちなセオリーだもん。
「え……、お嬢様、なにをなさりに王宮へ行くのですか?」
「もちろん、大階段から……」
そこまで言いかけて、口を閉ざした。
大階段から転げ落ちる、なんていったらまともじゃないと思われるよね……。
慌てて、にわか作りの笑顔を張り付けた。
「階段を見たら、なにか思い出すかなーって思ったんだよね。早速今から行きたいんだけど」
「それはできません」
「えっ、どうして?」
「基本的に王宮は、出仕している者の他には、参上を命じられた者、あるいは招待を受けた者しか入ることはできません」
え……っ!? う、うそでしょ!?
じゃあ、私、どうやって日本に帰ればいいの!?
「そ、そんな……。えと、じゃあ、あの、今度私がお城へ上れるのはいつなの?」
「そうでございますね……。半年後の王宮夜会には」
「そっ、それじゃあ間に合わない!」
CRY BABYのライブは二か月後! その前には元の体に戻って、チケットを確認して、絶対にライブに行くんだから!
「今すぐ行きたいの、その大階段にどうしても行かなきゃいけないの! どうすればいいの!?」
「そ、そう申されましても……」
出仕できるのは基本的に男性のみで、女性は王家の侍女として出仕することができるものの、これは誰にでも簡単にできることではないらしい。簡単に言ったら王侯貴族の妻候補、側妃候補といったものであり、高い素養と教養が求められるのだという。
そんなの、私にできるわけない……!
思わず頭を抱えたが、それ以前にエリスが戻らなければヴィリーバ子爵家で婿を取らなければならないベアトリスが王宮侍女として出仕できるわけがなかった。
ば、万事休す……!?
「こ、こうなったら、こっそり王宮に忍び込むしか……」
「べ、ベアトリス様!? それはいけません! 見つかったと同時に首を跳ねられます……っ!」
く、くび……っ!?
じゃ、じゃあ、どうすればいいのよ、誰か教えてよおぉぉ~っ!
ベアトリスが王宮に向かったある日、城ではある式典が執り行われていた。国家の繁栄や興隆に貢献した者が集められ表されるという催しで、植物研究が趣味だというマーガレットに勲章が与えられることになっていた。
「え、まさか」
「そのまさかで、ベアトリスお嬢様はマーガレット子爵夫人のドレスをまた……」
毎度同じ手とは能がないというか工夫がないというか……。ところがその日は、寸でのところでエバン・クラークネスに捕まってしまったのだという。お陰で式典は万事無事に済んだそうだ。エバンはマーガレットの夫君であるデコラム子爵に対し個人的に傾倒していたこともあり、自発的な正義感から式典が終わるまでの間、休憩室にベアトリスを閉じ込めてずっと見張りをしたらしい。
「お、思いっきり要注意人物扱いされてるじゃん……」
「残念ながら……」
奇しくも、今度はそれが問題になった。多くの王族貴族たちの集まる式典の間、端から見るとエバンとベアトリスは黙ってふたりきりで雲隠れしたように映ったのだ。エバンは己の正義にのっとって良かれと思い、単独ベアトリスを見張っていただけで、やましいことは万に一つもなかった。だが、いつの間にか噂が独り歩きし、ふたりはやんごとなき仲で、式典の間中熱烈な密会していたということになっていた。その責任を取らせるという形で、ヴィリーバ子爵がなんと、無理やりエバンとベアトリスとの婚約を押し切ったのだという。
「ええっ……! エバンのほうはすごいとばっちりじゃん……!」
「体裁を大変気にされる旦那様のことですから、こういうときの手回しはそれは早く、関係各所を回り、国王陛下さえも解き伏して、どうにか一年の婚約を結び取ったのでございます」
お、恐るべし、お貴族様のご体裁……。ということは、エバンにとっては要注意人物と無理矢理婚約させられたってことか。
そりゃ、あの態度もうなずけるわ……。
「エバン様は大変憤慨なさったそうですが……、でもエバン様も悪いのです。そのとき誰かひとりでも他の者を側に置いておけば、このようなことにならずに済んだのです。その失態を責められて、噂が落ち着くまでの一年間、互いの名誉のために婚約するのがいいと、国王陛下が仰せになったそうで……」
それで一年契約の婚約者ってことなのね……。
建前上、婚約者を心配しているという体裁を取らなきゃならないから顔を見せに来たってことか。
はあ~、それはまあ、ほんとご苦労様です……。
「ええと……、そうすると、階段で倒れたって言うのは……?」
「あの、それは……」
へティが再び言いにくそうに目を伏せた。
「いいの、言って。私は事実を知る必要があるから」
「その、つまり……」
へティが言うことには、エバン以上にこの婚約に憤慨し大反対したのがベアトリスらしい。絶対に嫌だと言い張り、泣き叫び、わめき狂ったが、最後の最後、王宮に呼ばれ、国王陛下に直々に諭されたらしい。エバンとベアトリスは国王陛下の御前で、婚約の書類に調印させられたのだという。
「王様直々って、そんなおおごとに……?」
「デコラム子爵が間に入ってくださったのですが、ベアトリスお嬢様は姉のマーガレット様ともうまくいっておりませんし、火に油と申しますか、ある意味ではそれもあって、火種がよけいに大きくなってしまったのかと予想してございます」
ともかく、国王のとりなしによって一年の婚約が約束された。その帰り、どういうわけか、いやむしろなるべくしてというべきか、エバンとベアトリスは言い合いになったのだという。恥も外聞もなく、周りの制止も聞かず、ベアトリスは激しくエバンを罵ったらしい。エバンは始めじっと耐えていたが、終ぞ堪忍袋の緒が切れて、応戦に転じた。そのとき、たまたまベアトリスが王宮の大階段で足を踏み外し、一番下まで真っ逆さまに転げ落ちたのだという。
「かん口令は敷かれましたが、こうしたスキャンダルこそ人々は面白おかしく噂をするものでございまして……。愛憎は表裏一体、強すぎる愛は巡り巡って憎さも増すと……。もともとベアトリスお嬢様はいろんな意味で、社交界では噂になることが多かったこともありまして、天罰神罰が下ったと心無い噂もする者もおりまして……」
ちょ、ちょっと、強烈すぎでしょ……。
悪役令嬢というだけでもキャラが濃ゆいのに、それに加えて嫌われている相手との一年限りの婚約。その婚約すらも子爵の強引な押しの手だし、階段から転げ落ちたら心配されるどころか、天罰とまで言われるなんて、そうとうな嫌われ者じゃん!
「ベアトリス、ひっ……どいね……!」
思わず力を込めて言い放っていた。へティが慌てて頭を下げた。
「もっ、申し訳ございませんっ、お嬢様!」
「あ、いいの、へティ。私が聞きたくて聞いたんだから。話してくれてありがとう」
「え……」
へティが驚いたように目を丸くしている。
「あ、あの……、べ、ベアトリスお嬢様……」
「ん?」
「あの、ほ、本当に、お忘れ、なのですか……?」
「えっ、これ以上まだあるの? ベアトリスの悪女列伝」
へティがまたもポツポツ言い始めたことには、どうもベアトリスはへティをはじめ使用人たちにも横柄な態度を取り、我がままを言い困らせることが日常茶飯だったらしい。ドレスと帽子の組み合わせが気にいらないからと扇子や手鏡を投げつけてきたり、お茶に入れる砂糖の数を間違えただけで減給させられたり。日に日に気難しくなっていくベアトリスを、ヴィリーバ子爵と子爵夫人も最近では持て余すようになっていて、ベアトリスの機嫌を取るためになんでも言うがままなことが多いのだという。
「そ……そんな困った人だったのね、ベアトリス……」
「も、申し訳ございません……っ」
「う、ううん。ええと、その、なんか逆に、ごめんね……」
「と、とんでもございませんっ」
私じゃないけど、謝っておくよ……。
へティが肩をこわばらせながら何度も頭を垂れているのを見ると、使用人たちがベアトリスに怯えていたというのが改めてわかった。
「エリスお嬢様があんなことにならなければまだよかったのかもしれませんが……」
「あんなこと?」
そういえば、ベアトリスは三人姉妹って言ってたっけ。一番上の姉が、エリスって言うんだったよね?
「エ、エリスお嬢様は……、本来であれば婿を頂き、未来のヴィリーバ子爵家の女主人となるお方でした。ですが、突如本当の愛に目覚めたとかで、さる男爵家の殿方と駆け落ちを……」
「えっ、駆け落ち!?」
子爵家を守るべきエリスが突如姿を消し、その後窯としてベアトリスにその役目が巡ってきた。ヴィリーバ子爵にとっては頭の痛い問題だったろう。娘が家格の低い貴族と駆け落ちなんて外聞の悪いこと甚だしい。そこへ加えて、ベアトリスはエバンとの熱烈密会の噂。これでは一年であろうとも無理やり婚約という強行に出るのも、わからないでもないのかも……。
「えーと……エリスお姉様、今はどこに……?」
「駆け落ちと言いましても、お相手の男爵家には大した財もなく、縁故のあるさるお家にふたりで囲われているそうでございます。ですので、ベアトリスお嬢様が目を覚まされたことはもうエリスお嬢様にもお伝えしてございます。近々、ご機嫌伺いのお手紙を寄こしていらっしゃるでしょう」
ご、ご機嫌伺いって……。お、お貴族様って、なんかどうか、……のんびりしちゃってるのかなあ~……?
本当の愛に目覚めたから駆け落ちって、いくらなんでもちょっと短絡的すぎと思うし……。
まあ、エリスのこと、なにひとつ知らないけれども……。
「まあ、それはいいや。とりあえず、私が気を失ったのは、その王宮の大階段って言う場所なのね。そこへはどうやっていったらいいの?」
なにがどうなってこんなことになっているのかわからない。わからないし、興味もない。
今の私にとって大切なのは、日本に帰ること。
すぐにでも帰って、CRY BABYのライブに備えること、これ一択!
そのためには、多分、ベアトリスが転げて落ちたという階段をもう一度転げ落ちる必要があると思うんだよね。
転生ものとか精神入れ替わりもので、ありがちなセオリーだもん。
「え……、お嬢様、なにをなさりに王宮へ行くのですか?」
「もちろん、大階段から……」
そこまで言いかけて、口を閉ざした。
大階段から転げ落ちる、なんていったらまともじゃないと思われるよね……。
慌てて、にわか作りの笑顔を張り付けた。
「階段を見たら、なにか思い出すかなーって思ったんだよね。早速今から行きたいんだけど」
「それはできません」
「えっ、どうして?」
「基本的に王宮は、出仕している者の他には、参上を命じられた者、あるいは招待を受けた者しか入ることはできません」
え……っ!? う、うそでしょ!?
じゃあ、私、どうやって日本に帰ればいいの!?
「そ、そんな……。えと、じゃあ、あの、今度私がお城へ上れるのはいつなの?」
「そうでございますね……。半年後の王宮夜会には」
「そっ、それじゃあ間に合わない!」
CRY BABYのライブは二か月後! その前には元の体に戻って、チケットを確認して、絶対にライブに行くんだから!
「今すぐ行きたいの、その大階段にどうしても行かなきゃいけないの! どうすればいいの!?」
「そ、そう申されましても……」
出仕できるのは基本的に男性のみで、女性は王家の侍女として出仕することができるものの、これは誰にでも簡単にできることではないらしい。簡単に言ったら王侯貴族の妻候補、側妃候補といったものであり、高い素養と教養が求められるのだという。
そんなの、私にできるわけない……!
思わず頭を抱えたが、それ以前にエリスが戻らなければヴィリーバ子爵家で婿を取らなければならないベアトリスが王宮侍女として出仕できるわけがなかった。
ば、万事休す……!?
「こ、こうなったら、こっそり王宮に忍び込むしか……」
「べ、ベアトリス様!? それはいけません! 見つかったと同時に首を跳ねられます……っ!」
く、くび……っ!?
じゃ、じゃあ、どうすればいいのよ、誰か教えてよおぉぉ~っ!