『世界一の物語』 ~人生を成功に導くサクセス・ファンタジー~
 固唾を呑んで呂嗚流の動きを追っていたフランソワに彼の声が届いた。
「秘訣を知りたいか?」 
 その瞬間、クイックモーションで二度頷いた。
「わかった、教えてやる。『成功するまで諦めない』というのが第一のポイントとすると、第二のポイントは『独自性を磨く』ということだ」
「独自性ですか?」
「そうだ、独自性だ。オンリーワンと言い換えてもいい」
 それを聞いて嬉しくなった。
『ワン』という言葉が大好きだからだ。
 思わず吠えたくなったが、ぐっと堪えて次の言葉を待った。
「ナンバーワンは競争の中で生まれる。勝つか負けるかの勝負だ。だから、競争に負ければ誰かに取って代わられる。しかし、オンリーワンは違う。唯一無二である限り、存在を脅かす者はいない。言葉を変えれば」
 なんだろう? 
 フランソワは脳の引き出しを片っ端から開けて答えを探したが、行き着く前に呂嗚流の声が耳に届いた。
「『無競争を生みだす』と言い換えてもいい。そのためには、」
 今度は即応した。
「誰かと同じことはしない」
 呂嗚流は満足げに頷いた。
「そうだ、その通りだ。『流行を追わない』ことだ。これが第3のポイントだ」
 流行……、
「人は流されやすい。易きにつきやすい。何故か? それは、大きな流れに乗った方が楽だからだ」
 そして、音楽業界の変遷(へんせん)について語り始めた。
「ロックン・ロール、ブルース、ハード・ロック、プログレッシヴ・ロック、ヘビーメタル・ロック、パンク・ロック、サザーン・ロック、ディスコ・ミュージック、ソウル、レゲエ、ボサノヴァ、ヒップホップ、ラップ……、過去数十年の間にブームが起こり、そして(しぼ)んでいった。その中で数多くのミュージシャンがデビューしたが、そのほとんどは短期間で消えていった。残ったミュージシャンはほんのひと握りだ。1パーセント未満と言ってもいいだろう」
 栄枯盛衰、淘汰、
 厳しい世界だ。
 しかし、そんな中でも呂嗚流は生き残ってきた。
 いや、勝ち残ってきたのだ。
 フランソワは尊敬の眼差しで彼を見つめた。
 すると、呂嗚流が純金製のラックから1枚のレコードを取り出し、表紙をフランソワの方に向けた。
 そこに顔が映った。
 しかし、なんか変だった。
 
 
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