春待つ彼のシュガーアプローチ
「優しく誠実な人を演じながら、陰でみんなの純粋な好意を踏みにじって…。罪悪感とか感じたりしないんですか?」


「むしろ痛快。見せかけの俺が本当の俺だと信じて疑ってない奴らが滑稽でたまらないぐらいだし」


最低……。


唇を噛み締めながら鋭い視線を向けたけれど、先輩は動じることなく冷笑を浮かべた。


「アンタのくだらない説教を聞きたいわけじゃねーんだわ。今日、ここで見たこと聞いたことは黙ってろ。口外したらタダじゃ済まさなねーからな」


目を逸らすと急に手首を強く掴まれた。


「正義を振りかざすウザい女には、ちょっと痛い目見せた方がいいかもな」


「は、離して下さい!」


振りほどこうとしても力で勝てるはずがなくて。


部室に連れ込まれそうになった時だった。



「こんなところで何やってるんですか、センパイ」


低い声が聞こえてきたかと思うと、すぐに掴まれていた手首が解放される。


視線を横に向ければ、先輩の腕を捻りあげている氷乃瀬くんの姿が映った。


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