春待つ彼のシュガーアプローチ
「おい、大事な話をしている時に何して……っ…!?」


あれ?
喋っている途中で急に静かになった。


不思議に思った私は目の前の大きな背中の横からおそるおそる顔を出す。


すると、氷乃瀬くんはスマホ画面を先輩に向かって突き出していて。


それを見つめる先輩の表情は驚きの中に焦りを滲ませていた。


「センパイやアンタの仲間が、今後…俺たちに危害を加えるような行為をしない、一切関わらないって約束を守れるなら、そちらの要求をのみますよ。もし破るような兆候が見られた場合はこの画像を……」


「あー、分かったよ。それ以上は言わなくても想像つく」



頭をクシャクシャと掻きながら先輩は面倒くさそうに溜め息をこぼす。



「マジで散々な日だわ」


氷乃瀬くんと私をそれぞれ睨みつけた後、先輩は部室からチョコがたくさん入った複数の紙袋を持ち出すと足早に去っていった。


きっと、さっき電話していた人のところに向かうんだろう。


そして女の子たちが贈ったチョコは、先輩の口に入ることなく全て処分されちゃうんだ…。


あっという間に消えてしまった後ろ姿。


私はモヤモヤした気持ちでその方向を見つめていた。



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