春待つ彼のシュガーアプローチ
「そうじゃなくて、並んで歩くのは気が引けるというか…」
「なんで?」
「だって、そんな光景を氷乃瀬くんのファンや好意を寄せている女の子たちが見たりしたら、不快な気持ちになるだろうから」
「ふーん」
抑揚のない返事。
氷乃瀬くんは周りを見回した後、私を真顔で見つめた。
「でも、距離をとって俺の後ろをついてくるっていうのも端から見たら怪しく映るんじゃない?」
言われてみれば確かに。
これじゃあ、まるで尾行している不審人物だ。
それなら私はどこを歩けば……。
「俺の隣に来なよ」
「えっ」
「別にやましいことしているわけじゃないだろ?だったら堂々としていればいいじゃん」
首の後ろに手をあてた氷乃瀬くんはフイッと視線を逸らした。
「そ、そうだね」
中途半端な配慮は変な誤解を生みかねない。
そんなことも分からないのかって呆れているんだろうな。
私は申し訳なく感じながら、ぎこちない足取りで彼の隣に並んだ。
「氷乃瀬くんに同行している同級生として、どんと構えていればいいよね」
「うん……」
小さく頷いて歩きだした氷乃瀬くん。
その横顔は口元が少しだけ緩んでいるものの、どこか陰りのある表情に見えた。