春待つ彼のシュガーアプローチ
「それなら、このあと一緒に来て欲しい場所があるんだけど付き合ってくれない?」
心の中で呟いていたことが表情に出てしまっていたのだろうか。
氷乃瀬くんから返金の代替案が提示された。
「もちろん都合が良ければ…だけど」
「特に用事はないから大丈夫!」
市立図書館は今日じゃなくてもいいし、私でも役に立てるのなら氷乃瀬くんの依頼を優先しよう。
学校を出て、駅とは真逆の方向へ歩く氷乃瀬くんについて行く。
交差点を渡って坂道を上っていくと、そこには高台の綺麗な住宅地が広がっていた。
高校に入学して、30分ほど電車に揺られて通学するようになってから、もうすぐ1年。
たまに、この街の市立図書館や駅前の本屋などに寄り道はするものの、駅と学校を往復するだけの日々が殆どだから、行ったことがない場所はたくさんある。
この辺りに来るのも、もちろん初めてだ。
「悪い、もしかして歩くの速かった?」
数メートル先を歩いていた氷乃瀬くんが不意に立ち止まる。
私は即座に首を横に振った。