氷と花
トントン、と部屋の扉を叩く音がして、マージュは白昼夢から目を覚まして顔を上げた。
いつのまにか目尻を濡らしていた涙を慌てて手の甲で拭い、扉に向けて声を上げる。
「はい、どなた?」
きっと女中だろう。ディクソンには断ったが、気を利かせて紅茶を持ってきてくれたのかもしれない……そう思って、マージュは窓辺から離れないで扉を叩いた人物が入ってくるのを待っていた。
しかし、
「わたしだ。開けなさい」
うなじの毛を逆立たせるような、低くて落ち着きはらった声が、扉の向こうから響く。マージュは心臓が止まるかと思うほど驚いて、目を見開いた。
「ミ、ミスター・ウェンストン?」
声が震える。
「そうだ」
ネイサンの声は──マージュの本能が正しく物事を察知していれば──危険なほど苛立っているような気がした。