神殺しのクロノスタシス1
それが時魔法であることに気づくと同時に。

シルナ・エインリーが振り向いた。

「君、今のうちに」

「…!」

彼の意図に気づいた俺は、再び月読に呼び掛けた。

「月読」

「分かってる」

『死火』という魔導書の真髄。神を焼き尽くす炎が、エクリプスに向かって放たれた。

そこに、シルナ・エインリーが。

「ymplifa」

俺の炎に補助魔法をかけ、炎を増幅させた。

いくら『禁忌の黒魔導書』と言えど。

三人の魔導師の、即席の連携には耐えられなかった。

「くっ…!」

「…ごめんね」

シルナ・エインリーはエクリプスに肉薄し、杖を向けた。

エクリプスの身体は、蒸発したように消え。

そして、真っ黒な一冊の本が、乾いた音を立てて床に落ちた。

これが…『禁忌の黒魔導書』。

「やれやれ…。持って帰って、また封印しておかないと」

その本を、シルナ・エインリーが拾い上げた。

「ったく…。その本、こんなところにまで出てくるのかよ…」

「本当にねぇ。まさか『禁忌の黒魔導書』の企てだったとは…」

「結局こいつ、シルナを狙ってこんなこと企んだんだろ?なら一周回って、全部シルナのせいだな」

「ちょっと。責任転嫁やめて」

…何やら揉めてるが。

「…話に入って良いか?」

「あ、うん…」

他の魔導師と交流を持つつもりなんて、なかった。

しかし、まがりなりにも共闘した者同士、無視することは出来ない。

「彼らはどうする?」

シルナ・エインリーは、つい先程まで人質にされていたアシバ達を指差した。

…そうだな。

何も知らない彼らを、これ以上「こちら側」に関わらせる訳にはいかないな。

いずれにしても、俺はもうアシバ探偵事務所にはいられない。

「…月読。頼む」

「…仕方ないね」

溜め息をついた月読が、アシバとイズチ、ウルミに魔法をかけた。

途端、三人共魂が抜けたように意識を失った。

ただ意識を失っただけではない。

彼らの記憶の中から、俺の存在を完全に消させてもらった。

…こうするしかない。これ以上彼らを巻き込まない為には。

「…済まない、皆」

何度やっても、こればかりは慣れない。

己の信念の為に、他人の人生を弄ぶのは。
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