熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
「理人さんがいてくれたから、私は……今ここにいるんだと思います。でも、これからは安堵じゃなくて感謝をしたいなって。大事な人にお祝いしてもらうことに喜びたいなって」
「俺も、君と一緒にその時間を過ごしたいよ」
 理人が言って、架純を側に抱き寄せた。
 架純は理人の胸に素直に頬を埋めた。
「ありがとう。理人さん」
「お祝いしてもいい?」
「はい」
「ケーキだけじゃなく、プレゼントも用意してあるんだ」
 理人が腕を離してそれからテーブルの下に隠していたらしいラッピングされたプレゼントを手渡してくれた。
「開けてみてもいいですか?」
「どうぞ」
 開けてみると、中には傘が入っていた。
「わ……きれいな傘」
「日傘にも雨傘にもなる両用のタイプだよ。なるべく軽量で骨もしっかりとしたものを選んだつもりだけど、デザインは……デザイナーに意見を聞いて、君の好きそうな雰囲気を目指してみたんだけど、どうかな?」
「ちょうど買い替えなきゃと思ってたんです。嬉しい! 大事にしますね」
 なにより理人が架純のためを想って考えてくれた時間、思い浮かべてくれたことが嬉しい。
 開いてくるりと回してみると、白地の紫陽花の形を透かし彫りしたようなデザインに上品な青紫の小花がちょうどいい間隔で刺繍されている。まるでそこに紫陽花が咲いたみたいだ。晴天の日でも雨の日でも映えそうだ。
 傘を閉じて巻きなおすと、理人と目が合った。彼は目を細めるようにして架純を見つめていた。
 まるで幻でも眺めるかのように切なげな彼にドキリとする。
 不意に、祖父の家の前で傘をさしてくれたときの理人のことを架純は思い出していた。
『これから先、君に何か困ったことがあれば、きっと力になる』
 そんなふうに言ってくれたことを。
 それなら彼のために自分もできることがしたいと、架純はやっぱり思うのだ。
「俺も……妻を大事にしたいんだよ」
 ――たとえ契約の関係でも。
 理人の一拍置いたその間の中に、その言葉が隠れていたとしても。
 さっきまでのやりとりの一連が脳裏をよぎった。
 きっと理人は忙しい時のに、架純のために時間を割いてくれた。そして架純をお祝いしたいと思って帰ってきてくれたのだろう。
 それなのに架純は理人の気持ちを知らずに深く傷つけるところだった。
< 71 / 110 >

この作品をシェア

pagetop