熱情を秘めた心臓外科医は引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 ほしいと言ったら応えてくれるのだろうか。
 でも、追及したら終わってしまうのなら、余計なことを言いたくない。
「帰ってきたら、君にちゃんと言いたかったのに」
 理人が悔恨の表情を滲ませている。架純はなんのことだろうと首を傾げた。
「ちょっと待っていて」
 そう言って理人は架純から離れ、寝室から出て行った。
 架純は心臓のあたりに手を添え、熱を帯びて重たくなった身体をそのまま横たえたくなった。
 しばらく待っていると、理人が戻って来て、架純にこっちにおいでと手招きする。架純はのろりと身体を起こして彼についていく。
 リビングに顔を出してすぐ架純は驚いて目を輝かせた。
「わ、すごい……」
 ダイニングテーブルの中央に飾られたイチゴやベリーがたっぷりのバースデーケーキ。白い清楚なデザインのお皿の上に載せられているのはアイシングクッキー。側のボトルはきっとお酒が飲めない架純のためにソーダ水を準備してくれていたのか。ハーブティーの硝子ポットも準備されている。そのひとつずつが丁寧に扱われているのが伝わってきて、目頭が熱くなってくる。
「パフェでお腹いっぱいかな? 食べるのは明日でも構わないと思うんだけど」
 架純は涙がこみ上げてくるのをこらつつ、ううんと首を横に振った。
「だって、先生が……理人さんが、私のために用意してくれたんですもの」
「今までできなかったから。俺と君の関係は……歪だったからね。君にしてあげたかったことが叶えられるというのも、今だからこそだと思っている」
「さっきはごめんなさい。私、誕生日のこと自分で忘れてて。それで、誕生日ってお祝いしてもらうことを嬉しいって素直に思ったことなかったんです」
「ああ。どうやらライバルに先を越されてしまったらしいからな」
 理人が肩を竦める。だが、架純はかぶりを振った。
「ライバル……じゃないですよ。友達です。そのチャット友達のハルに指摘されたんです」
 架純は言いながら、ハルのことを思い出していた。
『なんだよ。それじゃあつまらないじゃん。もっと喜びなよ。その、好きな人にお祝いしてもらいたいとかないの?』
『私の場合は……今日まで生きられたっていう、安堵の気持ちの方が大きいかな』
『スミレは大丈夫だよ。きっと長生きする』
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