君が愛おしくて。クールなエリートSPの甘く一途な溺愛事情
「藤、こないだは悪かったな」
ロッカールームで支度を整えながら、今日の警護でバディーを組む藤にそう言うと、彼女は俺を見て肩をすくませた。
「まったくです」
部下の一人である藤舞子(ふじ まいこ)は、指揮を取る第三係で唯一の女性SP。負けん気が強く、物怖じしない性格をしている。
「あの時はびっくりしましたよ。いきなり車を止めろと言ったと思ったら、降りてどこかに走って行っちゃうんですから」
そう、あれは、急速に動き出した出来事だった。
警護対象者の自宅から警視庁へ戻っている時、信号待ちしている車内からふと窓の外に目を向けると、反対側の歩道に、女性が一人で歩いている姿が見えた。
足を止めた女性が後ろを振り向く。その顔を見た瞬間、心臓が大きく飛び跳ねた。
それは十年前、身勝手な理由で手放した、最愛の人だった。
彼女は辺りを警戒している様子で、その姿は何かに怯えているようだった。気になって周辺を見回すと、彼女の後方、電柱に不審な人影が見えた。
藤には悪かったが、僕は車を降り後を追ったというわけだ。
「電話がきたと思ったら、今日は直帰するとか言うし、一体、何があったんですか?」
藤の実家は警備会社を経営している。ストーカーのことを相談をするのには、もってこいの相手だ。
「藤、今日は当直だったよな?」
「はい、それが何か?」
「任務終わり、少しいいか? 折り入って、相談したいことがあるんだ」
そう言うと、藤は拍子抜けしたように目を丸くした。
「あの郡司係長が私に相談だなんて、珍しいこともあるものですね!」
「僕だって、人を頼るときくらいはあるよ」
「またまた〜 大学の時から一人でなんでもこなしちゃって、周りが一目置いてたあの郡司先輩ですよ?」
藤は大学の二つ下の後輩でもある。同じ法学部で、キャンパス内で顔を合わせることはよくあった。
「名門で有名なうちの大学では、成績優秀者にしか贈られない名誉学位を受賞。その若さで階級は警部。第三係では係長という異例のスピード出世。お父様は元警視総監、お母様は元警視で美人」
「美人は関係ないだろ」
「あの遺伝子は確実に引き継がれていますよね。なんたってこの美形!」
僕の話など聞かず、藤は神々しそうに僕を見てそう言う。
「でも、SPになったのは意外でした」
SPは幹部候補、いわゆるキャリア組ではなくノンキャリア組。剣道や柔道、拳銃の腕など高いレベルを求められるが、一定の条件さえクリアすればなることが可能だ。
僕の学歴からして、両親も僕がSPになったことには驚いていたが、僕はこの選択肢以外、考えたことはない。
彼女を守れる男になると決めた、あの日から__。
「尊敬する郡司係長に頼られるのは嬉しいです。ぜひ、お話聞かせて下さい」
「ありがとう。頼むよ」
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