君が愛おしくて。クールなエリートSPの甘く一途な溺愛事情
「あーあ……」
たく兄の視線の先には、ぶつかった拍子で落としてしまった、お弁当箱があった。
輪ゴムもしていなかったせいで、お弁当箱の中は、無惨にも地面に散らばってしまった。
(せっかく、作ったのに……)
かがみ込んだたく兄は、ゴミや砂がついたおかずを拾って、お弁当箱に戻してくれる。
(こうやって見たら、ほんと不格好だな)
もっと上手くなったら彼の分も作ってあげよう。そう思って、毎日こつこつと頑張ってきた。
(こんな不器用で歪なお弁当、とても要くんには渡せない……)
「おっ、この卵焼き、美味そうじゃん」
そう言って、たく兄は卵焼きを口に運ぼうとする。
「ちょ……汚いってば!」
しゃがみ込んだ私は、たく兄から卵焼きを取り上げ、お弁当箱の中に戻す。
「大丈夫だろ。こんなに美味そうなのに、食べない方が勿体無い」
「……全然、上手くできてないから。味もしょっぱいか甘いかのどっちかで偏ってるし。……こんなんじゃ、要くんにも食べてもらえない……っ」
今にでも、泣いてしまいそうだった。
力のこもっていない弱々しい私の声に、笑っていたたく兄の表情は曇った。
なぜ、要くんと愛美さんは一緒にいたのか。二人の中は、とても親密そうだった。きっと伊勢谷元総理が来ているから、それで愛美さんもここにいるだけ。そう思っていた。
(でも、二人きりにならないといけない理由は、何……?)
「ねえ、さっき広場の方にいた二人見た?」
通りすがりの女の子たちの話し声が聞こえてくる。
「見た見た! すっごい美男美女だったよね!」
「女の人の方、伊勢谷愛美じゃなかった?」
「え、嘘。でも、確かにそう言われてみればそうだったかも。実物もちょー可愛い」
「男の人はSPか何かかな? 背高くて、かっこよかった」
「もしかし、て付き合ってたりして! もしそうだったら、すごいお似合いだよね〜」
何気ない会話に、ざわつき出す胸。
たとえ用のない不安が、心を襲う。
「っ……」
堪えていた涙が溢れそうになって、唇を噛み締めた。
(私は要くんのことが好きだ。泣きたいわけでもない。それなのに、胸が苦しい……苦しくて、仕方がない……)
< 83 / 115 >

この作品をシェア

pagetop