引きこもり婚始まりました〜Reverse〜
それから数日後。
珍しく、めぐの方から俺にくっついてきた――オフィスで。
「どうしたの。これは一体、何のご褒美? 」
何だかドアの方をきょろきょろしてるなと思ったら、急にパッと抱きついてくるんだから。
女神様はこうして、時々意味不明なくらい可愛い生き物へと変身する。
「ご、ご褒美じゃない。……ありがとって言いたかっただけ」
「何のことだろう。なんにしても、君はそんなこと気にしなくていいのに……ありがと。特に思い当たることがないから、やっぱり俺にはご褒美でしかないね」
誰も入ってこないよと、そっと髪を撫でた後にすっぽりと抱きすくめると、何を今頃慌てることがあるのかジタバタしたりして――更に可愛いことに、諦めたように俺の胸に頬を寄せた。
「今日、華子さんが新しい仕事教えてくれて。ちょっと大変だけど、充実してた」
(キツすぎず、簡単すぎないのって言っといたのに……)
『難しいこと言わないでください。第一、奥様ならもっとできることたくさんありますよ。過保護すぎるのは失礼です』
そう言い返されたけど。
「……頼んだのと違うって顔」
「嫌だな。何の話? 俺は、誰にも何もお願いなんてしてないよ。会えなくて寂しかったし」
そう、あれもこれも頼み事じゃない。
命令だったから、嫌味の一つ二つ混ぜて返してもちゃんと動いてくれている。
「お願いなんてしない。……君以外にはね」
側にいて、離れないで、俺を好きでいて。
お願いなんて言い方が軽すぎる懇願は、きっとめぐに届いていて。
呪詛にも近いような愛情表現に頬を染めてくれるのは、彼女が――……。
「……よくもまあ、ここまで壊せたよな。あんだけ崇めてた女神様を、さ」
――壊れることを赦してくれたからだ。
「……兄さん。まだ入れたんだね。さすが」
「そりゃ、偉くなったお前の兄だからな。おかげで門前払いは食わなかった」
(……そんなの、言われなくたって分かってる)
だから、彼女に不自由はさせないし、望むものは何だってあげたいし、その為なら何だってやる。
でも、めぐが望むのを諦めたのは自由で、それを捨ててしまえるくらい俺を想ってくれているのも理解してる。
「その声をまだめぐが聞かなきゃならないなんて、自分の不甲斐なさが嫌になるよ。ごめんね、めぐ。俺の力不足だ」
「……そんなことない。それに私、もう平気……っ」
……に、ならなくてもいい。
何度もそう言ってるのに、この女神様はいつだって立ち向かおうとしてくれるから。
「だーめ。言ったよね。俺に守らせて……って」
二つのキスシーン。
この浮気男には、どっちがより耐え難いだろう。
結婚式という誓いの場、たくさんの人に囲まれて祝福されたのが彼女と自分ではないことか、それとも――……。
「ゆ、優冬くんってば……! 待っ……」
――この閉鎖されたごく狭い空間で、神聖とはとても言えないような口づけを、他の男から贈られる彼女を目にすることか。